麻野涼の小説『暴走弁護士』ネタバレ解説感想

runaway_lawyer_withspoilers 小説 – ネタバレ解説考察

麻野涼さんの小説『暴走弁護士』。正義だとか正しいことというのは何なんでしょうね。
理性を持つ人間としてはルールに従うのが正しいようにも思いますが、そうもいかないのも人間です。

『暴走弁護士』を読んで、何か心に残るものがあった方も、そうでない方も、この記事が作品への理解を深める一助となればと思います。

ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。

『暴走弁護士』主な登場人物

  • 真行寺 悟 (しんぎょうじ さとる)
    1. 黎明法律事務所の弁護士。新聞で紹介され、「暴走弁護士」との異名で知られている。
      東京の日野市多摩平の出身で、家族は両親と兄との四人。
      暴走族「紅蠍」の総長を務めた過去がある。

  • 大河内 壮太 (おおこうち そうた)
    1. 新宿歌舞伎町のホストクラブ・スターダストのホスト、22歳。
      クラブではシンゴという名前を使い、瞬く間にトップホストの座を獲得し店の売り上げにも貢献。
      ある事件で家庭裁判所の審判を受け、少年院に送致された経験を持つ。

  • 加瀬 邦夫 (かせ くにお)
    1. 都内の小規模な運送業者、多摩輸送エクスプレス会社に所属するトラック運転手。50歳。
      ギャンブルへの依存とそれに伴う借金により、家庭は崩壊。
      息子・忠が少年院でクリーニング技術の資格を取得し、そのことを知らせる手紙を受け取ったことが転機となり、賭け事から手を引くことを決心した。

  • 桑原 麻由美 (くわはら まゆみ)
    1. 大河内に会うため新宿歌舞伎町にあるホストクラブ・スターダストに度々訪れていた。故・加瀬忠の恋人。
      リンゴを割ったようなみずみずしい白さの肌が、可憐さを一層引き立てている。

  • 国東 誠 (くにさき まこと)
    1. 服役経験のある両親の下、実質的に親不在の環境で育った。
      過去には不運もあり若くして犯罪に手を染めたが、更生を望み、過ちを償おうと奮闘している。

  • 野村 悦子 (のむら えつこ)
    1. 愛乃斗羅武琉興信所の代表。レディース「紅蠍」の初代総長。
      慶応大学法学部を卒業し、法律知識においても弁護士に劣らぬ洞察力を持つ。
      女性だけのチームで結成された探偵事務所を率いており、幅広い問題から個人の悩みまで手掛ける。

事故(事件)のあらまし

runaway_lawyer_features1

プロローグでの出来事と裁判での大河内の証言も考慮すると、ちょっとわからないところもあるんですが大体下記のような感じ。

平成27年12月○日午前

1時00分~
加瀬が多摩輸送エクスプレス会社の駐車場を出発し、すぐに調布インターから中央道へ。
早稲田大学正門前で大河内壮太と桑原麻由美が合流。富士吉田に向かう。

中央道日野バス停手前で大河内のレクサスが加瀬のトラックを追い抜く。

1時34分
加瀬が石川パーキングエリアに入る。

1時49分
加瀬が本線に戻る。

1時50分
蛇行運転のトラックが走行しているという通報。

2時をわずかにすぎたとき
八王子バス停前にレクサスを停車。

2時3分
最後の蛇行運転通報。

2時5分~
国東の運転するトラック上り線の八王子バス停待避線に停車。
塩野のフィットが八王子料金所を通過。その後、公衆用トイレに寄る。
塩野のフィットが中央道本線に合流。
渡のアルトが追い越し車線を猛スピードで通過。

2時12分
桑原がレクサスを降り、元町三郎が運転するタクシーに乗車。国東も出発。
加瀬のトラックと大河内のレクサスが衝突。
渡のアルトが事故現場を通過。トラックの後輪は激しく空回り。

2時13分
渡が現場を離れ警察に通報。

午前2時15分すぎ(多分)
塩野が現場を通過しつつトラックから飛び降りる加瀬を目撃。
加瀬がトラックを降り、大河内の生存を確認してトラックに戻る。(多分)

2時15分56秒
中平が事故現場を撮影。加瀬は運転席におり、辺りには煙が充満。ゴムが焦げるような臭いも。

2時17分
加瀬が警察に通報。
大橋が50mくらい離れた先の場所に車を止めて走って現場に戻り、加瀬に声をかける。
大橋も警察に通報。

登場人物たちの過去と動機

runaway_lawyer_synopsis

物語のオチとしては、加瀬邦夫、桑原麻由美、国東誠が共謀し、事故に見せかけて大河内を殺そうとした、というものでした。
直接の実行犯は加瀬邦夫。

第一審判決では検察側の危険運転致傷罪、殺人未遂罪は適用されず、弁護側の主張である過失運転致傷罪を適用。
1年6か月の禁固刑、執行猶予4年という最終判決となりました。

加瀬邦夫

邦夫はギャンブル依存症であり、これが家庭内の多くの問題の根源となっていました。
妻との間には二人の子供がいましたが、邦夫のギャンブル癖により家計は常に火の車。
結果として消費者金融からの借金が膨らみ、妻の貯金と実家からの借入で返済する羽目に。
その日の夜、妻から突然離婚を切り出され、二人の子供の親権も妻に譲渡されました。

離婚後、息子の加瀬忠は非行に走り、少年院で矯正教育を受けることになります。
そこで忠は邦夫に向け、今までの行いを深く反省し謝罪する手紙を送り、クリーニング師の資格取得に励みます。
忠の変化は邦夫にも影響を与え、ギャンブルからの脱却を促しました。

桑原麻由美

桑原麻由美は加瀬忠の恋人でした。
忠が少年院に入る前から交際は始まり、忠が少年院にいる間も手紙を送り、面会にも行っていました。

忠は少年院を出た後、麻由美と共に新しい生活を始めようとしていましたが、古い仲間と縁を切ろうとしたことをきっかけに事態は悪化。
元のグループに戻るのを麻由美が邪魔していると思った大河内は、卑怯な手段で麻由美をレイプ。
さらに大河内は忠に連絡を入れ、嘘を吹聴します。
忠は怒り、大河内たちとはもう付き合わないと言うが、その場で殺されてしまいました。

麻由美はこの時妊娠していましたが、性的暴行や忠の死のショックで流産。
その後は薬物依存症に陥り、深い絶望の中で生活していました。
しかし、自助グループの支援を受け、徐々に立ち直りを見せ始め、働くようにもなります。

大河内たちの出院を知り、忠の墓参りをするよう説得するためスターダストに通っていたところ、同じく大河内に会いに来ていた加瀬邦夫と出会います。

国東誠

国東は加瀬忠が亡くなる事件に関与し、その後逮捕されます。
十八歳の時に逮捕された国東は、暴力行為を行ったが、それは大河内の脅迫によるものであったと証言しています。
裏切れば忠と同じ目に合わせるという大河内の脅迫により、従わざるを得なかったというものでした。

出院後、国東の生活は安定していませんでしたが、賠償金の支払いを続けようと努めました。
賠償金の支払いは完全ではなかったものの、建設現場の日雇い労働など、可能な限り働いて賠償金を支払うようにしていました。
現在国東は、真行寺の昔の仲間である磯野の会社で働き始め、輸送業務を担当。

そして桑原麻由美との出会いは、国東にとって大きな転機となりました。
桑原から過去に起こったことの真実を聞かされた国東は、大河内の命令に従ったことを深く後悔します。

また、桑原が大河内に対して行った要求が無視されたことにも、国東は感情を動かされました。
この出来事を通じて、国東は加瀬邦夫と桑原麻由美と共謀し、三人で大河内を事故に見せかけて殺害しようと計画するに至ります。

過失運転致傷罪と危険運転致傷罪の違い

runaway_lawyer_features2

ドラマやニュースで耳にすることの多い「過失運転致死傷罪」と「危険運転致死傷罪」。
作中ではこれのどちらを適用するかが争われていました。

まず「過失運転致死傷罪」というのは、ざっくり言うと「うっかりミス」で事故を起こしてしまった場合に問われる罪です。
例えば、ちょっとした注意不足で赤信号を見落としてしまったり、スピードを出し過ぎてしまったり。
誰にでも起こりうる、ちょっとした不注意が原因で、人を傷つけてしまった場合に適用されます。
この罪での罰則は、最大で7年以下の懲役、または100万円以下の罰金です。

一方、「危険運転致死傷罪」というのは、「うっかりミス」を大きく超える、故意に近い危険な運転をした結果事故を起こしてしまった場合に問われる罪です。
具体的には、飲酒運転や無免許運転、赤信号を故意に無視するなど、普通なら「これはマズイだろう」と思うような行為をしてしまった場合に当てはまります。
こちらの罪の罰則は、人を死亡させた場合には1年以上20年以下の懲役、人を傷つけた場合には最大で15年以下の懲役と、かなり重い刑罰が定められています。

つまり、大きな違いは「不注意から起こった事故か、危険を承知での行為から起こった事故か」という点にあります。

加瀬に危険運転致死傷罪が適用されなかったのは、上記でいうところの「危険運転」と認定されなかったからです。
この犯罪を成立させるには、運転手が故意に基づく危険な運転(例えば、飲酒運転や制御不能な高速度での運転など)をしていたことを証明する必要があります。

しかし加瀬のケースでは、体調不良によりもうろうとした状態で蛇行運転をしていたと認定されました。
故意に危険運転を行ったわけではなく、体調不良による不注意が原因だったと判断されたのです。
さらに、事件に至った具体的な運転行為(レクサスに対する進路妨害の意図など)についても、故意があったと断定するには証拠が不十分だったため、最終的に過失運転致死傷罪の適用となりました。

「わざと危ない運転をしたわけではなく、体調が悪くてうっかりミスをした」と判断されたため、より重い罪には問われなかったというわけです。
そして当然、危険運転致死傷罪を前提とした殺人未遂罪についても無罪です。

裁判中は検察側の無能感が強調されていましたが、馬場刑事が国東に入れ込んで捜査に消極的だったので少しかわいそうでしたね。
馬場刑事も感情としては理解できますけど法治国家の警察としては・・ねぇ。

『暴走弁護士』感想まとめ

事故に見せかけて殺そうとしたってのはひどい話ですが、大河内がクズ過ぎるのでそういう意味ではスカッとした部分もありました。
共謀した三人も捕まらなかったですし。

物語中の非行少年たちは酷い家庭環境にありましたが、そういう人に限らず、少年法を盾に大河内のような酷いことをする人はいるんだよなーと想像すると、やっぱり胸糞悪くなります。

物語の終わり近くの真行寺の脅しの場面は隠された本性が垣間見える瞬間でしたね。
「いいぞ、もっとやれ」と言いたくなるような複雑な感情に駆られます。
というか調べると元暴走族の弁護士って現実にいるんですね。

物語の展開自体はある程度予測可能なものでしたが、それが逆に法廷ドラマを見ているような安心感を与えてくれた面もありました。
ミステリーとしては少し物足りなさを感じる部分もありましたが、法律系のドラマや映画なんかは割と好きですし、『暴走弁護士』は一定の楽しみ方ができる作品でした。

『暴走弁護士』が気に入った方へのおすすめ

【シリーズ続編】
『空白の絆 暴走弁護士』 – 麻野涼

暴走族から弁護士へ転身した異色の主人公、真行寺悟。麻野涼氏の「暴走弁護士」シリーズ第2作では、企業内での権力争いと戦争の記憶が絡む重厚な謎が展開します。人間味あふれるキャラクターたちと社会問題を織り交ぜたストーリー。法廷ミステリーとしても人間ドラマとしても秀逸な一冊です。



『さよならの手口』 – 若竹七海

若竹七海氏の「葉村晶シリーズ」第4作。探偵業を休業中の葉村晶が、偶然発見した白骨死体と、20年前に家出した娘の失踪事件に挑む。過去の謎と現在の事件が絡み合い、複雑な人間関係が浮かび上がる展開は息をのむスリルに満ちている。シリアスな中にもユーモアが光る、ハードボイルドなミステリーです。



『鍵の掛かった男』 – 有栖川有栖

有栖川有栖氏が描くミステリーは、鋭い謎解きと緻密なプロットが光る一作。主人公が巻き込まれる奇妙な事件を通じて、鍵に隠された秘密を解き明かすストーリーは、読者を最後まで惹きつけます。物語の進行とともに真実が明らかになる展開はスリリングで、数々のミステリーランキングで高評価を受けた作品です。

タイトルとURLをコピーしました