小説『カエルの小指』ネタバレ解説考察|計画と感情の間で揺れる14歳の復讐

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道尾秀介さんの『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』を読んだ人にとって、その後を描いた本作は、まさに「もう一度あの面々に会えるのか」という一抹の期待と、それに伴う妙な不安が入り混じった読書体験になるかもしれないですね。あのチームですから。

ジャンル的にはミステリ……の皮をかぶった何か、というのが適切でしょう。
詐欺だの再集結だの、文字面だけ見るとどこか映画の予告風ですが、実のところ中身はもう少し静かで、もう少し騒がしい。
善と悪、過去と現在、その狭間にいる登場人物たちが、相変わらずスレスレのやり口で正義(らしきもの)に手を伸ばす姿を眺める。

構造的にも語り口にも、どこか懐かしくて、どこか新しい。
あの“親指”の続編と知らずに読んでも楽しめないことはないですが、知っていれば尚のこと、ニヤリとする場面が多いでしょう。

ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。

小説『カエルの小指』の主な登場人物

  • 武沢 竹夫 (たけざわ たけお)
    1. 年齢は50代半ば、エプロン、安物の高級時計という出で立ちで、口先一つで商品を売る実演販売士。かつては詐欺師、今は更生したつもりの善人寄り。だが、理屈と義理に挟まれながら他人の人生にずかずか踏み込むあたり、手口は変われど性は変わらない。キョウと出会い、過去の亡霊に再び手を伸ばす姿には、偽善か誠意か、見る側の覚悟が試される。

  • キョウ
    1. 中学2年生、14歳。生気を削ぎ落としたような無表情に、異様に達者な話術。人の弱みを言葉で突く手際は、大人顔負けどころか大人より容赦がない。母の死を機に髪を切り、復讐を目的に計画を練り上げたが、その過程で誰よりも自分が生きる意味を問い直すことになる。冷静さの奥には怒りと悲しみが沈殿し、計画の幕引きには妙な静けさが宿る。子どもにしては達観しすぎ、大人としては少々壊れすぎた存在。

  • テツ
    1. やひろと貫太郎の息子にして、小学6年生の情報戦担当。小学生としては明らかに過剰スペックで、盗聴器の検出からBluetooth経由のPCハッキングまで難なくこなす。動画撮影と編集を趣味としつつ、詐欺撲滅作戦では現場の司令塔として暗躍。場の空気はやや読めないが、その分だけ自分の正しさに疑いがない。キョウへの信頼も一貫して厚く、計画全体の倫理観の最後の砦として機能するあたり、ただの賑やかしでは終わらない。

  • まひろ
    1. 31歳。グループの一員にして、冷淡な表情と裏腹に着実に任務を遂行するタイプ。姉のやひろとは正反対の温度感で、キョウへの当たりは一貫して刺々しい。だがその冷たさは未練や自己嫌悪の裏返しでもあり、作戦遂行の中で揺れる感情がにじむ。演技も駆け引きもこなす器用さを持ちながら、最後に見せる人間臭さが彼女の厄介な魅力である。

  • やひろ
    1. 38歳、まひろの姉であり、貫太郎の妻。ざっくばらんな物言いと母性混じりの明るさで、場の緊張をいとも軽く和らげるムードメーカー。無遠慮な発言も多いが、それすら演出の一部に見えてくる不思議な懐の深さがある。仲間たちのブレーキにもアクセルにもなれる稀有なバランサーだ。

  • 貫太郎 (かんたろう)
    1. 体型は丸く、顔つきは拡大コピーの小学生。言動もどこか子どもじみているが、その裏に人並み以上の忠誠心と機転が潜む。軽口を叩きつつも、大事な場面では黙って任務を果たすあたり、飄々とした仮面の中に意外な胆力を隠している。やひろとの夫婦漫才のようなやりとりが彼の愛嬌であり、緊張をほぐす潤滑油として機能している。

なぜキョウは武沢のもとに現れたのか

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キョウの母、寺田未知子が詐欺被害に遭った経緯は、ありふれていて、しかし救いがないものでした。
恋愛関係を利用した未公開株詐欺。加害者ナガミネは「秘密の儲け話」として近づき、家族経営の呉服店から985万円を引き出させたうえで雲隠れ。
会社は潰れ、自宅も失い、彼女の世界は音を立てて崩れていきます。

やがて寺田未知子はナガミネの自宅に包丁を持って乗り込みます。
刺した。殺したと思い込んだまま自宅に戻り、娘にすべてを打ち明けたあと、ショッピングセンターのテラス席から飛び降りました。
しかしネット上には、その瞬間の動画が残り続けけ、死にきれなかった彼女は、意識のないまま病院のベッドに横たわることになります。

そしてキョウは、母の“命の恩人”である武沢竹夫のもとを訪れます。実は15年前、扇大橋で母の自殺を止めたのが彼でした。
しかしながら、母の詐欺被害、再度の自殺未遂を経て、かつては感謝していたその存在を、今度は“母を救ったせいで自分が生まれてしまった”という皮肉な理由で恨むようになっていました。

キョウの目的と、破綻寸前の計画

キョウの目的は明確でした。母を欺した詐欺師ナガミネ、そして自分の存在を否定した父・瀬谷ワタル、その両者に「公平な罰」を与えること。
ナガミネを突き落とし、その様子をリアルタイムで瀬谷に見せる──という、14歳にしては大胆すぎる構想です。

そのための準備も周到でした。まずは武沢から実演販売の技術を学び、瀬谷が司会を務める番組に出場。そこで彼の毛髪を入手し、DNA鑑定で親子関係を確かめます。
優勝賞金で探偵を雇い、ナガミネの居所を突き止める。おまけに、武沢にも「責任」を取らせる形で計画に巻き込む。無駄のないプロットであり、詰め込みすぎな脚本でもあります。

ですが、武沢たちとの関係が深まったからなのか、最初からの計画だったのか、土壇場で「あの人たちを巻き込めない」と涙ながらに断念。
最後の武沢とのやり取りを見ていると、突き落とす寸前でナガミネ(偽物)の腕を掴んだ時点で、すでに彼女の目的は達成されていた。そんなふうにも読めてしまいますね。

武沢竹夫の“救済”計画と、その限界

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武沢の動機は一貫して救済でした。十数年前、自分たちを救ってくれた仲間に倣って、今度は自分が誰かを救う番だと思ったわけです。
その対象は中学生の少女キョウ。彼女の復讐心に気づかないまま、武沢は“大ガラス”気取りで彼女の仇討ちを手助けしようとします。

計画の肝は、偽ナガミネ役の雁井をまひろに接触させ、「詐欺が進行中である」という状況を演出すること。
そこへ番組「撲滅ウォリアーズ」が登場し、テレビ越しにナガミネを追い詰める。その光景をキョウが見て、「自分の望みが叶った」と思えるようにする。これが武沢の狙いでした。

あくまで「キョウのやり方で復讐を完遂させる」ことが目的であって、正義感でも法の裁きでもありません。
警察に突き出すより、もっと本人の心に効くかたちを選んだというわけです。そこが、元詐欺師らしい回りくどさでもあり、優しさでもあります。

けれどその結果、誰よりも欺されていたのは自分たちだった──。
計画の終点、あのフードコートのテラスに立っていたのは、本物でも偽物でもなく、武沢自身の思い違いだったのかもしれません。

小説『カエルの小指』ネタバレ感想、その他考察・疑問点など

一見シンプルな復讐譚のように見せかけて、その実、登場人物たちが互いに欺き合い、結果的に自分たちも欺かれていたという構図。

キョウの目的は復讐ではあるんですけど、それが途中で「人生のハンドルを自分で握りたい」にすり替わっていくあたりが巧妙でしたね。
明確な罰を与えるフリをして、微妙なところで手を引くという選択のほうがよほど残酷で、大人びていて、そして切ない。
14歳がやるにはどう考えても完成度が高すぎるんだけど、そこはまあ、物語なので。

武沢は武沢で、「救ってやったつもりが、最初から踊らされてました」展開が実に哀れで愛おしい。らしいといいますか。
それでも武沢の行動や情には不思議な魅力がありますね。

そしてやっぱり、前作『カラスの親指』を読んでいる身としては、武沢・まひろ・やひろ・貫太郎のあのメンバーが再び揃っているのを見るだけでテンションが上がりましたね。
十数年経ったのに相変わらずで、でも少しずつ変わってもいて、あの空気感はやっぱり唯一無二。

だからこそキョウという新キャラがどれだけ魅力的でも、つい視線が古参メンバーに吸い寄せられてしまいました。
まひろが使った偽名「戸坂ましろ」が、前作で拾われていた捨て猫“トサカ”だったり、武沢が名乗る「岩見克照(いわみかつてる)」という偽名が、入川鉄巳のアナグラムだったり。
こういう何気ないファンサービスが個人的に良かったです。やひろと貫太郎の息子のテツもそうですね。

しかし、テツ。小学6年生でハッキングから潜入までこなすのはもう笑うしかないけど、本人のメンタルが年相応なのが逆に怖い。
バランスが取れているのか崩れているのか、もはやよくわかりません。

タイトルの「カエルの小指」は最後までよくわからないところがありましたが、全部読み終わってから、ああ、そういうことか…と少しだけ頷けた気がします。
変わること、変えられないこと、その境目に小さな指があるのだとしたら、それはやけにリアルで、ちょっと残酷な真実ですね。

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