『兇人邸の殺人』は、ミステリー作家の今村昌弘さんによる作品です。
『屍人荘の殺人』シリーズの第3作目に当たる本作品について、キーをポイント振り返りつつ感想を書きます。
ネタバレをモリモリ含む内容となっておりますので、未読の方やネタバレを避けたい方はご注意ください。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
『兇人邸の殺人』簡単あらすじ
葉村譲と剣崎比留子、二人は成島陶次からの特別な依頼を受けることに。
目的地は馬越ドリームシティの中心、兇人邸。
伝えられるところによれば、元班目機関の研究者、不木玄助がその中に秘密の研究成果を隠匿しているという。
成島はその研究成果を手に入れるべく、傭兵たちと共に兇人邸へと乗り込む。
不木を確保し、彼の案内のもと、研究成果を求めて館内を進むが、意外な展開に。
突如として大鉈を手にした隻腕の巨人が現れ…
『兇人邸の殺人』主な登場人物
- 葉村 譲 (はむら ゆずる)
- 神紅大学経済学部一回生。ミステリ愛好会会長。本作及びシリーズの主人公。
- 神紅大学経済学部一回生。ミステリ愛好会会長。本作及びシリーズの主人公。
- 剣崎 比留子 (けんざき ひるこ)
- 神紅大学文学部二回生。ミステリ愛好会会員。同じく本作及びシリーズ主人公の探偵役。
- 神紅大学文学部二回生。ミステリ愛好会会員。同じく本作及びシリーズ主人公の探偵役。
- 成島 陶次 (なるしま とうじ)
- 成島IMS西日本社長。40歳前後で顔は二枚目と言えるだろう。
比留子の事件を引き寄せる体質に目を付け、逆にそれを利用しようと兇人邸に同行を求める。
- 成島IMS西日本社長。40歳前後で顔は二枚目と言えるだろう。
- 裏井 コウタ (うらい こうた)
- 30代前半くらいの外見で落ち着いた雰囲気だが、その表情にはあまり活力を感じさせない。
成島の難解な命令や困難な状況でもその解決策を見出す能力を持つ。
- 30代前半くらいの外見で落ち着いた雰囲気だが、その表情にはあまり活力を感じさせない。
- 不木 玄助 (ふぎ げんすけ)
- 昭島興産会長。40年以上前に班目機関に属していた研究者で、現在は「兇人邸」にて隠居に近い生活を送る。
小柄で猫背が特徴であり、その外見と猿を用いた研究から、「猿博士」と陰で呼ばれていた。
- 昭島興産会長。40年以上前に班目機関に属していた研究者で、現在は「兇人邸」にて隠居に近い生活を送る。
- 剛力 京 (ごうりき みやこ)
- フリーライター。ドリームシティの秘密を暴こうと「兇人邸」に侵入。
というのは建前で、その背後には個人的な動機が隠されていた。
ナルコレプシーという睡眠障害を持っている
- フリーライター。ドリームシティの秘密を暴こうと「兇人邸」に侵入。
- ケイ
- 《追憶》編に登場。研究のために全国から集められた被験者。
- 《追憶》編に登場。研究のために全国から集められた被験者。
巨人の正体とその背後にある動機

兇人邸に潜む恐ろしい隻腕の巨人、その正体は《追憶》編に出てくる「ケイ」です。
ケイはかつて班目機関の研究施設で他の子どもたちと生活していましたが、ある事件をきっかけに現在の巨大な姿になってしまいました。
ケイの巨人としての行動の背後にある真実は、深く心に刺さるものがあります。
ケイは不木の実験によって人間を猿のようなバケモノとして見えるようになりました。
不木の実験により変異させられた猿は、通常の生命力をはるかに超えており、彼らを確実に止めるためには首を斬るしか方法がありません。
皮肉なことに、彼女が愛した人々、家族を守ろうと行動した結果、実際には大切な仲間たちの首を切り落としてしまっていたのでした。
この事実を知ったとき、葉村の心の中で「こんな報われない話があるか!」という叫びが湧き上がったのも納得です。
兇人邸は研究所の環境を再現したもので、比留子がいた部屋にケイが入らなかったのは、女子が出入り禁止の男子棟だったから。
満月の日に凶暴性が増すのは、満月の影響で精神が不安定になり、事件の記憶を思い出し当時を追体験しているから。
真犯人とその衝撃の犯行動機

雑賀を殺した犯人は成島の秘書、裏井でした。
裏井が雑賀を手にかけた理由、それはケイと同じ罪を背負いたいという強い願望からです。
裏井のこの思いはケイが研究施設での事件を引き起こして以来のもの。
ケイが施設で大量の犠牲を出したこと、そしてそれを止めることができなかった裏井の罪悪感が彼の行動の原動力となっていました。
ケイと同じ立場、同じ目線で彼女の過ちを理解しようとした裏井。
彼は自らも殺人者となることで、ケイの罪を共有しようと考えました。
裏井は独自の正義感から、雑賀を自分に襲わせることで、正当防衛の名の下に彼を殺害。
雑賀が裏井に襲いかかる際に持っていたナイフは、超人的な能力を持つ裏井にとってはさほどの脅威とはなりません。
裏井は雑賀を自らの手で仕留めることで、その思いを実現させました。
剛力京の正体とミスリード
「兇人邸」ではテーマパークの従業員を巨人の生け贄として犠牲にしていました。
この悲劇の中で、剛力京の兄・剛力智も犠牲となっており、そんな智の安否を確認し、必要とあらば復讐も視野に入れて「兇人邸」を訪れたのが剛力京でした。
しかし、驚くべき事実が明らかになります。剛力京の本名は「前田圭子」。
彼女は智の中学のクラスメートで、再会を経てやがて恋人同士に。
再会した時、圭子の人生は荒れており、真の剛力京は失踪しこの世にいないと信じられていました。
智は彼女を救うため、妹としての新しい人生を提供しました。それ以降、圭子は「剛力京」としての人生を歩み始めます。
外見は30代初頭だが、免許証には23歳と記載。この違和感が、物語に散りばめられた伏線のひとつとなっていました。
剛力京に関しては、《追憶》編のケイと思わせるようなミスリードが他にも存在します。
わかりやすいのが名前の「京(みやこ)」が「ケイ」と読める点。
身体能力が強化された”生き残り”を示すような「剛力」。
本当の名前も「前田圭子」で「ケイ」ですね。
さらに、ケイがよく居眠りをしてしまうこと、剛力がナルコレプシー持ちであることなどが挙げられます。
鍵回収からの比留子生還

クライマックスで比留子はどうやって別館から脱出したのか。この作品の見どころの一つです。
日没まで残り40分。
阿波根が裏切って不木の部屋に続く金属扉を閉じてしまったことで、剛力を除く人間は巨人から逃れる安全地帯を失ってしまいます。
残された道は一つ。正面の跳ね橋を落とし、外に続く道を開くこと。
葉村たちが外へ続く跳ね橋を落とした段階で比留子はまだ別館にいます。
副区画から広間に続く通路には鉄格子が降りており、主区画から広間に続く通路は鉄格子は上がっていますがバリケードが設置され、簡単に素通りというわけにはいきません。
広間の鉄格子を上げ下げするためには広間の操作パネルの鍵か必要ですが、鍵は別館の鐘楼で殺されたコーチマンが持っています。
つまり、常人の比留子が脱出する方法は実質ありません。
外への道が開けた後、葉村は一縷の望みにかけトラックにスマホを取りに行きます。
しかし、剛力智のスマホを持っている比留子から自分宛て連絡は当然ながらないし、比留子のスマホにはロックが掛かっています。
その足で金属扉と広間の間にある跳ね橋へ。そこで葉村は裏井の衝撃的な告白を受けます。
裏井は何を思ったか、首塚にかかる跳ね橋の鎖を断ち切り、跳ね橋をかけてしまいます。
超人的な身体能力を活かして橋を駆け抜け、別館1階の扉から鐘楼側へ姿を消したあと、橋の向こうに巨人が現れます。
しかし、裏井によって鳴らされた鐘楼の鐘の音に反応し、巨人は裏井に元へ。
葉村が裏井との別れを惜しみながら正面入口に移動すると、知らない番号から「広間に」ショートメッセージが届きます。
広間に戻ると。副区画へ降りる通路の落とし格子のむこうに比留子が。
比留子から操作パネルの鍵を渡され、間一髪で比留子を救出できました。
この時の比留子の行動は以下のとおり。
中の跳ね橋がおり、鐘楼の鐘がなる。
→裏井が鐘楼に巨人を引きつけた合図。
首塚に移動し、ドラム缶の中に隠れながら裏井の首を持ってくる巨人を待つ。
→首塚に首を持ってくる習性を利用。
巨人が首塚から去った後、裏井の口に入っている鍵を回収。
→首を切られたときに鍵が飛び出さないよう、リング部分を奥歯に挟んでいた。
巨人は別館に行ったため、そのまま副区画から階段を上がって広間へ。
→もし巨人が主区画か副区画にいった場合は別館から首塚上の跳ね橋へ。
比留子と裏井が同じことを考えたこと。裏井の狂気的な自己犠牲。
パネルを操作する人間を確保するため、葉村がスマホを取りに行ったことにかけてメッセージを送信。
このような奇跡が重なって成立した脱出劇でした。
もし比留子が行動しなかった場合、裏井の死は無駄になります。
跳ね橋を渡したことでより多くの犠牲が出る可能性もありました。
裏井は鐘楼に向かう前、「なにが起ころうとも彼女(比留子)を責めないで」と葉村に言い残しています。
『兇人邸の殺人』ネタバレ感想まとめ
なぜ裏井は剛力をかばう必要があったのか、”生き残り”裏井の能力、巨人や他の仲間は事件後どうなったのか、などなど、疑問に思う点はいくつかありましたが、総じてとても楽しく読み終えることができました。
他にも巨人が兇人邸に来る前にどこにいてどうやって管理していたのか、ってのも思いましましたが、巨人が成長しているということからも、兇人邸に来るまでは簡易な施設でも管理可能な成長具合だったんですかね。
裏井はケイが好きだったにしても動機がやばすぎてびっくり。極限まで振り切ったイイ奴だったのでしょうか。
よくありそうな流れなら裏井がケイをなんとか討伐して涙。ってところにまさかの展開だったので個人的には面白かったです。
最後は屍人荘に出てきた重元さんで終わりましたね。
正直最初は「誰だっけ?」ってなりましたけど続編ある感じなので楽しみです。
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