前作『カラスの親指』を読んだ方にとっては、あの奇妙な家族がまた戻ってきたこと自体、ひとつの事件ですね。
道尾秀介さんの『カエルの小指』は、その続編にして、見覚えのある笑いと痛みが、少しだけ形を変えて帰ってきた物語です。
物語の核心にあるのは、ちょっと歪で、やけに真っ直ぐな復讐と再生。けれど読みながら「それだけじゃないのでは?」と首を傾げさせる仕掛けが随所に潜んでいます。
元詐欺師と中学生という異色のコンビは、実演販売とペテンの狭間をゆらゆらと渡り歩き、気づけば観る者までもを巻き込んでいきます。
ジャンルで括るのは野暮かもしれません。ミステリーの皮をかぶった人間ドラマ?それとも倒叙劇のふりをした家族小説?
あえて言えば、「誰かの人生をちょっとだけ信じてみたくなる」話です。
ご注意:
この記事には出版社のサイトや販売ページに掲載されている書籍情報、簡単なあらすじや登場人物、構成、テーマについての情報を含んでいます。ネタバレ無しですが、これらの情報が読書体験に影響を与える可能性がありますので、完全な初見で作品を楽しみたい方はご注意ください。
小説『カエルの小指』の概要
| タイトル | カエルの小指 a murder of crows |
| 著者 | 道尾秀介 |
| 出版社 | 講談社 講談社文庫 |
| 発行 | 初版:2019年10月 文庫:2022年02月 |
| ページ数 | 448ページ |
| シリーズ | カラスの親指シリーズ |
| 前作 | カラスの親指 by rule of CROW’s thumb – 紹介記事 |
一見ミスマッチな要素を、道尾秀介さんは相変わらず手際よく混ぜ合わせてきます。本作は『カラスの親指』の続編にあたり、あのクセ者たちが再集結。
ミステリーとも青春譚とも、ひと筋縄ではくくれないこの物語は、計算と衝動、理屈と情が入り混じる不思議な読後感を残します。
シニカルな笑いと微かな祈りが同居する、シリーズならではの空気感も健在。
小説『カエルの小指』のあらすじ
講談社
「久々に、派手なペテン仕掛けるぞ」詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器に実演販売士として真っ当に生きる道を選んだ武沢竹夫。しかし謎めいた中学生・キョウが「とんでもない依頼」とともに現れたことで彼の生活は一変する。
シビアな現実に生きるキョウを目の当たりにした武沢は、ふたたびペテンの世界に戻ることを決意。そしてかつての仲間――まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結し、キョウを救うために「超人気テレビ番組」を巻き込んだド派手な大仕掛けを計画するが……。
騙しの物語は、いつの間にかもうひとつの顔を見せてくる
小説『カエルの小指』で印象的なのは、「詐欺」というテーマが物語全体の構造そのものに深く組み込まれている点です。
一見すると単線に見える展開も、読み進めるうちに「あれ?」と立ち止まりたくなる違和感が少しずつ積もっていきます。
登場人物たちの目的や関係性、さらには過去の出来事までが、後になって別の角度から照らされることで、最初に見えていた真実が揺らいでくる。
そんなずらしの積み重ねが、物語に独特の奥行きを与えています。
読後には「最初からそうだったのかも」と思い返し、二度目の読書に手が伸びる――そんな仕掛けも、本作の静かな見どころです。
親と子、その言葉に収まりきらないもの

『カエルの小指』には、ただの親子という言葉ではとても語りきれない、不器用でいびつな感情が詰まっています。キョウという名の中学生が登場することで、物語は一気に静かな熱を帯びはじめます。
キョウはただ助けを求める子どもというには難しい存在です。そして対するのは、かつて騙す側にいた武沢という男。
出会うべくして出会ったふたりが、互いに触れないまま、少しずつ距離を詰めていく様子が妙にリアルで刺さります。
何かを託したい側と、受け止めきれない側。それぞれが背負う過去の重さが、じわじわと読者にも染み込んでくるような一編です。
読み終えた後、彼らの関係をどう名付けるべきか、少し考え込んでしまうかもしれません。
続編を書かない作家が、あえてもう一度描いた理由
著者の道尾秀介さんは、基本的に「続編は書かない」主義の作家です。それでも『カエルの小指』が生まれたのは、あるシンプルな動機がきっかけだったそうです。
――「また、彼らに会いたくなった」。本作はそんな再会の物語でもあります。
シリーズを貫くのは、ただの再登場ではない、登場人物たちへの著者自身の深い愛情と敬意。だからこそ、前作のその後を描くことに意味があるのだと、読みながらじわじわ伝わってきます。
前作から十年以上が経過し、登場人物たちはそれぞれに変化しています。変わったもの、変わらなかったもの。
あの頃より少し静かに、でも確実に熱を帯びた物語が、今あらためて語られます。
派手な企ての裏に見え隠れする、著者と読者のまた会えたというまなざし。それこそがこの一冊の底に流れる、静かな動力になっています。
小説『カエルの小指』の評価・レビュー
『カエルの小指』は、前作『カラスの親指』の続編として登場人物たちの再会を描きつつ、新たな展開を加えた作品です。
読者からは、再登場するキャラクターたちの成長や変化に対する喜びの声が多く寄せられ、また、物語の構成や伏線の回収についても高く評価されています。
一方で、前作と比較して物足りなさを感じる読者もおり、特に新キャラクターの描写や物語の展開に対する意見が分かれています。
全体として、読者の受け止め方には幅があり、個々の感性によって評価が異なる作品となっています。
登場人物たちの再会が嬉しく、彼らの成長を感じられるのが良かった。
伏線が丁寧に張られており、最後まで飽きずに読めた。
前作の雰囲気を踏襲しつつ、新たな展開が加わっていて楽しめた。
読後に心が温かくなるような優しさを感じた。
物語の構成が巧妙で、再読したくなる魅力があった。
前作と比べて物足りなさを感じ、期待を下回った。
新キャラクターに感情移入しにくく、共感できなかった。
物語の展開が予想しやすく、驚きが少なかった。
一部の描写が現実離れしており、リアリティに欠けた。
中盤のテンポが遅く、読み進めるのに時間がかかった。
小説『カエルの小指』の感想まとめ
読んでいる間は、何を仕掛けているのかな?という気持ちでした。
いろんな素材の詰め合わせがいい感じに歪んでいて、それなのに作品全体はすごく整っている。でも、私としては気持ちはあまり整いませんでした。
不穏、じわじわ、ちょっと泣ける。そして、けっこうムカつくところも。
構成は緻密で、終盤にかけて仕掛けが幾重にも重なっていく様子はなかなかです。
でもその複雑さが読者サービスとは限らず、「わかる人だけ、どうぞ」とでも言いたげな視線もちらついていて、そこには作家としての愉しみもあるのかもしれません。
読み終わってみれば伏線はたくさん張ってありましたが、ちゃんと拾えたかと聞かれると、うーん……となるあたりがまた悔しいです。
キャラクターはどれも立っていて、みんな何かしらの痛みを抱えていて、それが絡み合っているのがまた重たいです。
特に武沢というおじさんは、前作とはまた違う、良い意味でズルい存在感を放っています。
この作品は、誰かを全面的に推すような話ではない気がします。全員どこかにひっかかりがあって、愛しきれず、嫌いきれず、ちょっと呆れたりします。
読後、作品として「うまいな」とは思いました。でもうまさでは測りきれない感情が残ります。
気づく人だけが気づく伏線。掘ろうと思えばいくらでも掘れる構造。そして、無力感と後味の妙な塩辛さ。そういうものが好きな人には、たまらない一作なのではないでしょうか。
<特におすすめしたい方>
感情の機微や人物の心の揺れをじっくり味わいたい方
ミステリーに人間ドラマの要素を求める方
重くてほろ苦い物語に没入するのが好きな方
読後に余韻や静かなざわめきを残したい方
「騙し合い」よりも「騙される理由」に興味がある方
『カエルの小指 a murder of crows』 – ネタバレ解説考察記事


