小説『恋に至る病』ネタバレ解説考察|愛と狂気が交錯する物語

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『恋に至る病』のあとがきでは、著者の斜線堂有紀さんは「寄河景という人間そのものを謎としたミステリー」と評しています。
本当にサラッと読んだだけではわからないですね。

結局正解は提示されませんでしたが、いくつかの手掛かりから自分なりに解釈してみました。
一読者の考察としてお暇な方は是非どうぞ。

ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。

小説『恋に至る病』主な登場人物

  • 宮嶺 望 (みやみね のぞむ)
    1. 物語の語り手であり、中心的な視点の提供者。外見はどこか不健康そうな印象を与えつつも、整った顔立ちを持つ。寄河景の通う小学校に転校してきたことで、彼の運命は大きく変わる。寄河景に振り回されながらも重要な真相に迫る役割を担い、時に犠牲を伴う選択を迫られる。

  • 寄河景 (よすが けい)
    1. いつの時期もコミュニティの中心的存在であり、周りの人間に対して絶大な影響力を発揮する。外見も美しく、あらゆる人間が彼女のことを好きになる。宮嶺とは小学生の時からの付き合いで、当初から特別?な存在であった。ブルーモルフォの首謀者で、多くの人間を死に追いやった。

  • ブルーモルフォ (青い蝶)
    1. 都市伝説的な存在として語られる不気味なゲームである。その概要は「参加者がゲームマスターの指示に従う」という極めて単純なルールに基づいている。しかしその内容は多岐にわたり、無害とも思える課題から生命を危険にさらす指示まで幅広い。参加者は、SNSを通じて特別なサイトへの招待を受け、そこでゲームが開始される。このサイトには美しい蝶のモチーフがあしらわれ、参加者を幻想的な雰囲気で引き込む。だが一度始めると、途中でゲームを放棄した者やルールに違反した者が命を落とすという噂が絶えない。

寄河景という化物を考える

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寄河景を考察する上で厄介となるのが、基本的に宮嶺の視点で書かれているため、景の発言の真偽がいちいちはっきりしないことです。

ポイントポイントで納得できる解釈はできるのですが、作品全体で見ると、あちらを立てればこちらが立たず状態になってしまって、色々頭を悩ましました。

なので一番本音を言っている可能性が高いであろう、景の死の間際に発した言葉を軸足にすることにします。

私は、宮嶺を傷つけられた時から、……私の中に、ずっと消えない炎があるの……私が、もし、普通の女の子だったら、恋に至る病より

「傷つけられた時」は、小学生時代にいじめを受けていた宮嶺が死にたくなるくらいまで心を痛めたとき。
「消えない炎」は、一言で言えばブルーモルフォのこと。景の側面の一つ。

ブルーモルフォに捕らわれて自殺に向かう人間、あるいはそれを連想させる描写で、火に飛び込んでいくような表現がたびたび見られます。
「普通の女の子」は、大量殺人を犯すようなサイコパスな人間でなければ、というそのままの意味。

景は自身のサイコパス性癖と宮嶺への想いとの間で、終始複雑に葛藤していたのだと思います。
おそらく見落としている点もあるかと思いますし、かなり都合よく辻褄を合わせているところも多いですが、一個人の一解釈としてご覧いただければと思います。

宮嶺との接触と景の心の内側

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結論から言えば、一般的な恋心とは違うにせよ、景は宮嶺を特別な感情を持っていたと思います。

景は宮嶺が転入してくる前から同級生を手のひらで転がしていました。この頃から人を操ることに楽しさを感じていたのだと思います。

そんな時、宮嶺が転入してきました。宮嶺は内向的な性格で友達もいなく、家は隣。景にとっては格好のターゲットです。

宮嶺が「寄河さん」と呼んでいたことに対して、「そこで特別なっちゃうよ」というセリフ。これは不自然な言い回しです。

特に何も思っていない人間であれば訂正する必要性も感じませんし、転校してきたばかりなのであれば、〇〇さんと呼ぶのはむしろ自然です。

女みたいな顔、綺麗な顔、不健康そうな出で立ち、という記述から、宮嶺は割と端正な顔立ちで、どこか母性本能をくすぐるような雰囲気があったことがわかります。

恋心とまではいかなくとも、初対面の時点で何かピンくるような感情を抱いた可能性は十分あります。自分の能力を使ったゲーム的感覚、宮嶺にちょっかいを出すくらいの軽薄な試行的意図も感じますね。

宮嶺を特に意識し始めたのは校外学習後、ケガをした景を宮嶺が訪ねたときでしょう。校外学習の時、少女の凧を隠したのは自分であると景は後に告白しています。

当然この真偽はわかりませんが、景が少女と話しているとき、少女の顔が徐々に明るいものになっていたということと、魔法は二人だけの秘密という記述から、何かしら少女にとって確実性のあるメリットがあり、かつ宮嶺に言えないことが話されたと考えられます。

例えば、どこどこで凧を見たから後で届けてあげる、みたいなことです。

正直これはこじつけですが、以降の考察からも本当の可能性が高いと考えますので、ここでは一旦真実として話を進めます。

考えられる景の目的は、宮嶺の前でケガをして罪悪感を植え付けることと、宮嶺が自分を助ける姿をクラスメイトに見せることでいじめの布石を打つことです。

おそらく右目のケガは不慮のものだったと思います。いくら景といえど、失明してもおかしくないケガを意図的に演出するのは無理があります。
明らかに深刻な目のケガに言及せず、足のケガを強調したのは目的を優先したためです。

人心掌握に美しい容姿が大いに役立っていたことは間違いありません。実際、目のケガにはショックを受けたでしょう。

そこで宮嶺の訪問です。宮嶺は、景はどんな風になっても綺麗だと声をかけます。
これを境に「宮嶺くん」から「宮嶺」に呼び方が変わりました。宮嶺は景の問いに応え、ヒーローになることを約束します。

ここで宮嶺への気持ちに何らかの変化があったのは明白。景はクラスメイトには、基本的に「くん」「さん」付です。
自殺を止めた善名をはじめ、ブルーモルフォの被害者も同様。仲良し三人組の一人、緒野江美ですら「ちゃん」付けです。

苗字とはいえ呼び捨てにすることは、景にとってかなり特別なことです。根拠はありませんが、ここで特別な想いを持ったと思っています。

その後、消しゴムの盗難から宮嶺へのいじめが始まります。

校外学習の一件で、足のケガを強調してまで宮嶺の助けるところをクラスメイトに見せたことから、やはりいじめの布石を打っていた可能性は高いと思います。
景はクラスのみんなから好かれており、宮嶺が少なからず妬みを買うことは容易に想像できたはずです。

問題は景が主導したものなのかどうかです。妬みを買ったとはいえ、それだけでいじめが発生するかというとなんとも言えません。

いじめの開始時期

いじめが始まったタイミングについて。

いじめの開始時期は校外学習の翌週で、初日から連続して三日目までいじめの描写がありました。
校外学習でケガをした景は、一週間経っても学校に登校しませんでしたが、宮嶺は校外学習の一週間後の放課後に景の家を訪ね、翌日に景は学校に出てきます。

校外学習は11月末に行われ、景の復帰が11月最終週もしくは12月第一週とすると、復帰の週に祝日はなく、景宅訪問、景復帰、いじめ初日から三日目まで一週間の中にちゃんとハマります。

ヒーローになったのと入れ替わるようにいじめが始まったとあるので、いじめは景の復帰日かその翌日から始まったんだと思います。

景の黒幕説といじめの構図

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私の解釈ではいじめの教唆はあったと考えています。
いじめに関してはデリケートなことなので恐縮なんですが、フィクションの話としてご了承ください。

いじめを受ける人に共通する特徴としては、端的に言うと一般的な目線から見て悪目立ちする人です。

宮嶺は転入して間もなく友達も少ない、校外学習で嫉妬を買っている、綺麗な顔をしている、みんな景のことが好き。

なるほど確かに、特に男子からしたら面白くなく、ある程度いじめに繋がる下地は揃っているように思います。しかしこれだけで当たり前のようにいじめが起こるかといえばさすがに強引です。

前のセクションで、いじめの開始は景の復帰後としました。では仮に自然発生的にいじめが起こったとすれば、なぜ一週間のラグがあるのか。

復帰した景が眼帯をしている姿を見て気持ちが爆発した。あり得ます。
しかしこの場合、ちまちまと消しゴムを盗むよりはもっと感情をぶつける形になると思います。ガキ大将タイプの根津原ならそれこそ暴力的なこともありそうです。

消しゴム盗難がスタートであったこと、校外学習での景の行動、いじめ開始のタイミング。総合的に考えると、いじめの景黒幕説は一定の妥当性はあるんじゃないかと思います。

ここで確認しておきたいのが、景には支配欲求と宮嶺への想いの二つの面があったということです。景の多くの言動に矛盾めいたところがあるのはそのためです。

いじめを主導した目的は、最終的にいじめから宮嶺を救うことで自身の重要性を高めること。それと支配欲求を次の段階に進め、欲求を満たす、あるいは能力を試すことです。

いじめは消しゴムの盗難から始まったとされていますが、後の景の発言で、最初は無視や悪口から始まって次に筆記用具…といったことが語られています。
宮嶺がいじめを自覚する前からそれは静かに始まっていたのかもしれませんね。

実際宮嶺自身も、消しゴムの前からクラスでは好かれていなかった、ほとんど話しかけられなかったと認めています。

ともあれ、”ラスト4行の衝撃”から消しゴムは最終的に景が持っていたことが判明しています。

盗難時の消しゴムは宮嶺にしか本人のものと判別できない状態でした。偶然入手したということはなさそうです。
一週間学校に来なかった景が、いじめ開始までのわずかな期間にわざわざピンポイントで消しゴムの特徴を覚えたとも思えませんし、仮に覚えたとしても、その場をスルーして後で偶然発見することを期待するというのも不自然な話です。
偶然どこかで拾った誰のものかもわからない消しゴムをいつまでも持っていたとは考えにくいです。

根津原が盗った消しゴムを取り返したケースは対立関係が必要で、景が黒幕であれば基本的に奪取説はナシです。途中で対立関係になった可能性は一応ありますが一旦保留します。

残るは自分で盗ったか根津原たちにもらったか。こちらも一旦保留。

景は根津原たちに指示し、文房具の盗難や教科書の破損など、エスカレート式にいじめを加速させていきます。
ここからは結構想像が入ります。

景がインフルエンザで一週間休んでいる時、ここで根津原から直接的なアプローチがあり、いじめが激化。
おそらく根津原は景からの指示を受けているうち、景が宮嶺のことを気にしていることに気づいたのだと思います。

景のことが好きな根津原は、景の指示内容とまた別に自分の意志で宮嶺を攻撃していた可能性があります。
特に消しゴムを盗ってそれを景に渡すように言われていたとしたら、恋のおまじないの件で嫉妬が爆発してもおかしくはありません。

もしくは景が自分で消しゴムを盗ったことを根津原に話していた場合も似たような感じになります。
調子に乗るなという言葉もこのような状況なら合点がいきますし、景が戻ったら目に見えるいじめがなくなったこともわかります。

六年生で景と宮嶺が別のクラスになり、景の目が届きにくくなったことから、ここからも景の指示とは別に多かれ少なかれ根津原の意志でいじめがあったと思われます。

ここで跳び箱事件の発生です。

根津原の取り巻きのセリフ、

お前が、お前の所為で、寄河に──恋に至る病より

のあとに「嫌われた」とか「怒られた」とかそんな感じの言葉が入ったとすれば、景にいじめがバレたというのは根津原の上乗せしたいじめのことだった、というのはどうでしょうか。

宮嶺に話した直談判の話はある意味嘘じゃなかったのでしょう。暴力はやめるように根津原に言ったのだと思います。

この跳び箱事件自体はまた宮嶺への罪悪感を植え付けるための景の演出だと思いますが、根津原がこの事に触れなかったことから、これは根津原ではなく取り巻きに頼んだものだったのかもしれません。

もし消しゴムを取り返した場合はこの辺になるでしょうが、力づくも難しそうですし、そもそも根津原がそれまで消しゴムをもっている理由がよくわかりません。
いじめの成果物としては蝶図鑑もありますし。

この件で燃料投下された根津原がさらに燃え上がり、宮嶺を骨折させます。階段から蹴り落とすなんて普通に死にかねないことを景がやらせるとも思えません。

これで景がブチギレ、自分の行動によって宮嶺を必要以上に傷つけてしまったこと、死んだほうがいいとまで言わせてしまったこと。
骨折の後の宮嶺との会話で、景は涙を流した目の奥が燃えているとい描写がありました。これが死に際の呟いた消えない炎だったのではないでしょうか。

自分の歪んだ欲求の裏で、クラスメイトが別の人間によって流され、特別な想いを寄せる相手が傷つけられたことに憤りを感じるという複雑でわがままな感情。
その結果が根津原を殺させるという結果に繋がったのだとも思います。

宮嶺はただのスケープゴートだったのか

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根津原の事件から着想を得た景は、計画に具体性が出てきたことで、自分の快楽を満たすための欲求が膨れ上がったのだと思います。

景はブルーモルフォを作る以前、中学3年生の時に自殺教唆、幇助で2、3人を殺したと言っています。これは中学の修学旅行で久しぶりに宮嶺にアプローチをかけた時期と重なります。

この時の外濠発言そのままに、根津原殺しの秘密共有、高校では宮嶺を副会長に推薦、付き合っていることを周りに言うなど、順調に宮嶺を囲っていきます。

エピローグでの入見の話を追っていきましょう。

まず景の家にこれ見よがしに古新聞の束が置いてあった件。これは状況的に景の仕業で間違いないでしょう。
古新聞の束は一番古いものが半年前のもので、これは青い蝶というワードの初出、人権集会でスピーチ後お互いが告白し、ブルーモルフォを動かしているのが自分だと打ち明けた時期です。
このころから放火による証拠隠滅の可能性を想定していたことになります。

「それだけじゃないか。スマートフォンもパソコンも、全部全部捨てちゃおうかな。いらないもの全部まとめて火を点けてさ」
「パソコンとかって燃えるの?」
「世の中の大半のものは燃えるよ」恋に至る病より

宮嶺の放火のアイデアに直接影響したのはこの会話かなと思います。他にも宮嶺は景やブルーモルフォに関しては何かと火を連想させています。

それと関係ないと思いますが、景のアイテムには赤いものが多い。リボン、ベレー帽、マフラー、掛け布団の柄。人間の皮膚に刻んだ赤い蝶など。

古新聞の件も含め、ブルーモルフォの関する情報の開示、でっちあげの池谷菅生の論文、少なくとも宮嶺をスケープゴートにできるような状態を作ろうとした可能性は高いです。

ブルーモルフォを続けていれば、遅かれ早かれ警察に見つかることは間違いありません。
宮嶺の警察へのリーク、日室の件、これらがどこまで景の思惑だったはわかりませんが、宮嶺を利用する意図は明らかです。

景が刺された屋上のシーン。

「私のこと、嫌いになった?」
~~~~~~~~
「……宮嶺はああ言ってくれたけど、まだ私を諦めてないんだよ」
「いつか傷は治ると思ってる」
~~~~~~~~
「ねえ、賭けをしない?」恋に至る病より

景は宮嶺の忠誠心や自身に対する感情の確認のため、いつもの質問をぶつけます。自分の異常性を自覚しつつも、宮嶺との関係性を通して何らかの救いを見出そうとしていた可能性が考えられます。
善名が飛び降りなかったら宮嶺の勝ち。飛び降りたら景の勝ち。これは景にとって文字通り賭けだったのではないでしょうか。

景はブルーモルフォに絶対に近い自信を持っており、自分が声をかけても最終的に自殺することは予想していたと思います。
善名は景に対して深い恩を感じており、景を見れば自殺を躊躇してしまう。完全にブルーモルフォに囚われていた善名は、ミッション完遂のため、強行手段で景を排除する行動をとる可能性は高いです。

(1)「どんなことになっても、私と一緒にいて」「どうしてそんなに、」景は答えの代わりに僕の右目蓋をそっと撫でた。
~~~~~~~~~~~~
(2)「やっぱりそうか」
~~~~~~~~~~~~
(3)「……ブルーモルフォは……完璧だった、私は間違えなかった、私は、」
~~~~~~~~~~~~
(4)「私は、宮嶺を傷つけられた時から、……私の中に、ずっと消えない炎があるの……私が、もし、普通の女の子だったら、」恋に至る病より

(1)
景も何かしら攻撃されることは予想していたでしょう。それこそ最悪の結果も。
もし自分が殺されたとしても、罪を被って一緒に地獄に堕ちて、とも取れますし、自分をずっと想って欲しいという、宮嶺への気持ちが溢れた一言だったとも取れます。
景の複雑な思いを感じます。

もしここで自殺を止めることができたら、それはブルーモルフォが負けたということ。ブルーモルフォから手を引き、宮嶺と一緒に少しずつ人間の心を取り戻せるかもという淡い期待がよぎったのかもしれません。

(2)
自分のしてきたことの報い。
そんな期待を持っていい人間ではないことを改めて自覚し、自分の予想通りの結果になってしまったことを自嘲するように出たセリフだったのではないでしょうか。

(3)
ブルーモルフォはマスターである自分ですら止められないほど完璧だった。開き直りのような感情からくる最後の自己肯定だったと思います。

(4)
記事の冒頭で紹介した、景がどのような人間であったかを考える上で軸としたセリフ。
景の行動は単に計算高い悪意からだけでなく、宮嶺への感情や人間性を取り戻すことへの望み、そして自身の異常性への自覚と葛藤に基づいていたこと、自分が普通の女の子であれば異なる人生を歩めたかもしれないという未練。

この言葉が本音だったのであれば、このような複雑で矛盾した葛藤に支配された人生だったのではないでしょうか。

消しゴムを持っていた理由

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最後にラスト4行についてです。ここ判明した事実は、景が宮嶺の消しゴムを持っていたことでした。

小学校時代の凄惨ないじめ、根津原の死。これらはその後の二人の行動や関係性に大きな影響を与えた出来事です。消しゴムはその始まりとして大きな意味を持ちます。

消しゴムは景の心の中で宮嶺への特別な感情と自らの行動に対する罪悪感を象徴したものだと思います。

消しゴムは宮嶺への感情を物理的に保持するための感情的遺品として機能し、景にとって愛情と保護の欲求、さらには宮嶺を支配するという深い欲求の具体化であり、自己の行動を正当化する心理的な支えとなっていのではないでしょうか。

他方でこの消しゴムは宮嶺を傷つけたことの罪悪の証拠としても機能しています。

景の行動は宮嶺を救うことで自分の重要性を彼に対して高める計略であり、愛情ではなく操作に近いものでした。消しゴムを大切に持ち続けることは、自身の歪んだ価値観や正義感を物語っているとも言えます。

自らの罪悪感に対する一種の自己罰の役割、あるいは普通の女の子としての自分を繋ぎとめるストッパーとしての意味も持っていたかもしれません。

また、消しゴムを交渉材料として利用する意図を持っていたとも考えることができます。

宮嶺との関係において何らかの力関係を築くため、あるいは将来的に何かを要求する際の交渉力として用いることを見越していたかもしれません。

小説『恋に至る病』感想まとめ

個人的な答えとしては「ただ一人だけは愛した化物の物語」としました。一般的な恋心や愛とは違うかもしれませんが、宮嶺への気持ちは特別だったと思います。

宮嶺は景に深く愛情を抱いており、景の策略に気付きつつも罪を被ろうとしていました。
入見により宮嶺が景に利用されていた可能性を指摘されたことで、宮嶺が自身の立場と行動を改めて再考するきっかけを与えられます。

これが宮嶺にとっての自己認識と成長の機会だと考えれば、物語における希望の要素ともなるのかなと思います。ブルーモルフォの影響を受けた人々も同様です。

寄河景の歪んだ正義や価値観による異常な行動を入見によって否定されたことは、どんなに魅力的な悪役であっても、最終的には社会のルールや倫理によって拒絶されるべきというメッセージとも言えます。

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