道尾秀介さんの作品は何作か読んでいたので、ただでは終わらないだろうなと思ってましたが、最終盤にはまた余計な(褒めてる)展開にしてきましたね。
解釈委ねる系は好きですが、それなりに自分の中で答えが欲しい身としてはこの作品は逆に清々しく諦めることができました。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
『球体の蛇』主な登場人物
- 友彦 (ともひこ)
- 当時17歳の青年。愛称はトモ。
アルバイトをしており、父親の転勤に同行せず隣家の乙太郎の家族と暮らす。
色白で眼鏡が似合う顔立ち。母親は四年前に家を出て再婚。自身は後にナオと結婚する。
- 当時17歳の青年。愛称はトモ。
- ナオ
- 乙太郎の娘。当時15歳、高校一年生。トモとは仲のいい幼馴染だった。
家事は一手に引き受けており、手際もいい。
- 乙太郎の娘。当時15歳、高校一年生。トモとは仲のいい幼馴染だった。
- サヨ
- 乙太郎の娘でナオを姉。
キャンプ場でのテントの火事で、顔に大きな火傷を負い、中学二年生のとき、自殺によりこの世を去った。
中学生にしてはずいぶんと大人びており、物静かで頭がよく、美しい姉だった。
- 乙太郎の娘でナオを姉。
- 橋塚 乙太郎 (はしづか おつたろう)
- 『橋塚消毒』という白蟻を駆除する会社を経営。
トモを住まわせ面倒を見ている。タバコの銘柄はハイライト。
- 『橋塚消毒』という白蟻を駆除する会社を経営。
- 智子 (ともこ)
- 亡くなったサヨによく似ている女性。
青森生まれで、両親の離婚を機に中学三年生のときにこの町へ引っ越した。
高校時代の担任教師、綿貫にキャンプ場の火事について脅迫され、関係を持っていた。
- 亡くなったサヨによく似ている女性。
- 田西 オサム (たさい おさむ)
- トモが大学時代に隣人だった男性。年齢は20代半ばから30代。
若々しい声と物腰だが、痩せた顔に皺が多いく無造作に流した髪には白髪が目立つ。
長野県出身でフリーターをしながら小説家を目指している。
- トモが大学時代に隣人だった男性。年齢は20代半ばから30代。
『球体の蛇』過去に起きた事件

物語の大半はトモが高校生の時の回想話ですが、さらにその前、小学生の時にいくつかの事件を経験しています。
これらの出来事が、トモをはじめとした登場人物の時々の言動、感情につながっています。
サヨ行方不明事件
サヨが小学三年生、トモが一年生の時、サヨはトモに家出を計画していると相談した。
トモはサヨを自宅の物置に隠し、大人たちには「漁港で遊んでいる最中にサヨが突然いなくなった」と説明するよう頼まれる。
トモはその通りにし、捜索隊が編成され大騒ぎとなった。
その報告を受けたサヨは「風邪ひいたら、遊びにきてね。」と言い、庭を出ていった。
その後、サヨは船の陰で水に浸かっていたところ発見される。
サヨは、トモと遊んだ後、一人でうっかり海に落ちてしまったと言ったようだ。
夏祭り事件
サヨの行方不明事件の翌年、幼稚園の年少組のチーちゃんという可愛らしい女の子と出会った。
チーちゃんとトモたちは公園で遊ぶ仲になり、一緒に夏祭りに出向く。
チーちゃんが割り箸に刺したメロンを齧っている最中、サヨが急に動きチーちゃんの手にぶつかり、チーちゃんが口にした割り箸で怪我をしてしまう。
その怪我は軽くはなかったが、入院するほどではなかった。
ナオはサヨがわざと鋭く削った割り箸をチーちゃんに渡したのではないかと疑い、その後サヨはそれを認めた。
サヨはその行為について、「急に嫌いになった」とだけ説明し、それ以上の詳細を語らなかった。
トモたちはその後、チーちゃんと再び遊ぶことはなかった。
キャンプ場の火事
トモが小学五年生の春、乙太郎の誘いで家族四人と共にN川沿いのキャンプ場に出かけた。
キャンプの夜、ナオとサヨをテントに残し、乙太郎、逸子、トモの三人はドライブに出かける。
戻るとテントが燃えている。乙太郎と逸子が炎に飛び込み、逸子は全身に火傷を負い一週間後に亡くなった。
サヨは顔と左腕に重度の火傷を負い、ナオは軽傷で済んだ。
火事の原因は焚き火の不始末で、燠が風にあおられテントの網戸に引火したとされた。
テント内には花火が置かれていた。
同日、智子は学校の行事で担任の綿貫に引率されてキャンプに参加していた。
智子はグループから離れ、展望広場でタバコを吸っていたところ、綿貫に見つかり驚いてタバコを投げ捨てた。
その展望広場の下には家族連れのテントがあり、そのテントが燃えた。
しかしナオの告白によると、テントの火事はサヨが引き起こしたものとされた。
サヨはテント内で花火の一本に火をつけ、恍惚とした表情を見せていた。
しかし、火が毛布に燃え移り、サヨの顔色は一変して怯えた表情になった。
火は瞬く間に毛布全体に広がり、テント内の熱が急激に上昇し、花火の入ったビニール袋に火がつき、連続して火薬が爆発した。
六年生の夏、トモは火傷を負ったサヨに対し同情の感情を抱き、「サヨちゃんと結婚する」と告げた。
サヨは無表情で何も答えなかった。
その後、サヨは診察の予約がない日にもかかわらず病院に向かい、クヌギの木にナイロンロープをかけて自殺。
彼女のそばには割れたスノードームの破片が散らばっていた。
後にトモは、サヨを殺したのは自分だと感じ、同情の気持ちから結婚を申し出たことが彼女を傷つけたと告白。
サヨは自分ではなく、トモを殺したかったのだとトモは言う。
タイトル『球体の蛇』とスノードーム

『球体の蛇』の「蛇」は大きな真ん丸い嘘を丸呑みにして生きている人間を指しており、
ある特定の事実や出来事を飲み込んでしまった人間の姿を表わしています。
その人間が何を飲み込んで苦しんでいるのか外からは見えませんが、その膨らんだ腹が苦しさを示し、
物語中の各登場人物が抱える秘密や嘘、それによって生じる苦しみが隠されています。
そして重要なシーンでは必ずと言っていいほど登場する「スノードーム」。
スノードームの中の世界は閉じられた空間で、外の世界とは隔絶されています。
同様に、各登場人物もそれぞれが抱える秘密や嘘によって他者と隔絶された存在で、内側にある真実は外からは見えない。
スノードームの中の世界が幻想的で美しいように、登場人物たちが見せる表の顔も一見平和で美しいかもしれません。
しかし、その内側には苦しみや秘密が潜んでいます。これは蛇が大きな嘘を丸呑みしている様子とも重なります。
スノードームの中の人物にとって外側の世界は未知であるように、登場人物たちの内面や真実は読者にはわかりません。
それぞれの人物が異なる視点や解釈を持ち、同じ出来事でも感じ方が違うことを示しています。
物語の中で描かれる事件や出来事は、登場人物たちの視点や嘘、真実によって様々な解釈が生まれます。
スノードームは作品全体を象徴するアイテムとして、物語の核となる「わからない」という感覚を読者に伝えているように思います。
『球体の蛇』ネタバレ感想
まず最初に、トモが家の床下に入るシーンで出てくるカマドウマの描写はきつかったです。
個人的にカマドウマにはトラウマがあるので、この部分は読み進めるのが辛かった。
自分なら性欲満タンの思春期でもあそこまでは絶対できなかっただろう。
そして乙太郎と智子の関係が明らかになるシーンは、同じ立場だったらと思うと脳が破壊されそうでしたね。
自分はまだヤってないのに。ちょっと彼氏ヅラしてるようなところもあったと思います。
物語全体としては、何が本当で何が嘘だったのか、それは読者にはわからず、解釈は委ねられていました。
チーちゃん事件でのナオとサヨ、キャンプ場の火事に関するナオの証言、綿貫家の火事についての智子の話、ナオによる智子の自殺報告など、嘘が絡んでいるかもしれない出来事が多く登場します。
ナオの描写は意外と多くないものの、最終的にトモと結ばれることを考えると、ナオはトモを昔から好きで自分に有利になるような嘘をついていた、としたらドロドロしていて好き。
ナオはかなりの演技派だったかもしれない。
しかし、どういう気持ちだったかはさておき、事実として行方不明事件の発端がサヨ自身であることは明らか。
そういうとことからも、トモが考えるのと同じく、キャンプ場での火事もナオの証言通りにサヨがやったとしても不思議ではない印象でした。
恍惚の表情で炎をみるサヨ。なんだかすごく想像できる。
真相は明かされませんが、物語の最後にトモが見た女性は本当に智子だったのではないかなーと根拠もなく感じました。
トモが罵倒した時に投げつけられた智子のスノードームはギリギリ球体を保っており、サヨのように割れていなかったので、なんとか助かったのかなというイメージがあります。
あとは夏祭りの事件後、チーちゃんがどうなったのか気になってます。
母親を弟に取られたと思っていたチーちゃんが、トモたちとも離れ離れになり、一人で寂しく砂場を掘っている姿は非常にいたたまれない気持ちになりましたね。
再び一緒に遊びたがっていたのに、その願いが叶わなかったのは悲しいです。
物語の最後の一行は、トモが様々な可能性を考えた上で、最終的にはナオを心から受け入れたような印象を受けました。
なので個人的には一応ハッピーエンドかなと捉えています。
全体を通して、嘘と真実、内面と外面の境界が曖昧で、それぞれのキャラクターが持つ秘密と苦しみが複雑に絡み合った作品でした。
読者に多くの解釈の余地を与える点が、この作品の魅力だと思います。
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