『Another』は綾辻行人さんが描くホラー・ミステリー小説で、夜見山北中学3年3組に起こる異常現象と恐怖の連鎖を描いた作品です。
1998年、転校生の榊原恒一が、謎めいた少女見崎鳴とともに、このクラスに潜む恐ろしい秘密を暴こうとします。
次々と起こる不可解な死、〈現象〉と〈災厄〉の正体、そして死者の真実。
巧妙な伏線と叙述トリックで読者を引き込み、最後の最後まで緊張感を持続させます。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
『Another』主な登場人物
- 榊原 恒一 (さかきばら こういち)
- 東京から夜見山北中学3年3組に転校してきた。原発性自然気胸を患い、母の実家に引っ越してきた。料理研究部に所属していたことがあり、家事の腕前が高い。
- 東京から夜見山北中学3年3組に転校してきた。原発性自然気胸を患い、母の実家に引っ越してきた。料理研究部に所属していたことがあり、家事の腕前が高い。
- 見崎 鳴 (みさき めい)
- 夜見山北中学3年3組の生徒で、左目に白い眼帯をしている。義眼には「死者の色」を見分ける能力がある。美術部に所属し、絵を見ることが好き。
- 夜見山北中学3年3組の生徒で、左目に白い眼帯をしている。義眼には「死者の色」を見分ける能力がある。美術部に所属し、絵を見ることが好き。
- 三神 玲子 (みかみ れいこ)
- 恒一の叔母で、夜見山北中学の美術教師。14年前に3年3組を卒業し、現在は美術部の顧問を務めている。実は1996年に亡くなっており、1998年の「死者」としてクラスに紛れ込んでいる。
- 恒一の叔母で、夜見山北中学の美術教師。14年前に3年3組を卒業し、現在は美術部の顧問を務めている。実は1996年に亡くなっており、1998年の「死者」としてクラスに紛れ込んでいる。
現象の発端と災厄の始まり

現象の発端
『Another』の中心には、26年前の1982年に始まった「現象」があります。
夜見山岬という生徒が死亡した際、クラスメイトたちは岬が生きているふりを続けた結果、卒業写真に岬の姿が写り込んでしまいました。
この出来事が引き金となり、夜見山北中学3年3組は「死」に近づくクラスになってしまいました。
現象の詳細
翌年、クラスの人数が1人増えたるという不思議な出来事が発生します。この増えた1人は死者であり、実体を持ち生きているように見えます。
自分が死者であることには気づいておらず、クラスメイトや関係者の記憶や関連する記録も改竄され、誰が死者かはわかりません。
死者がクラスに紛れ込むことで、3年3組の関係者が次々と死に至る「災厄」が発生します。
災厄が終了すると、死者は消え、関係する記録や記憶も元に戻ります。
災厄の範囲と頻度
災厄の影響は、3年3組の生徒やその親兄弟など二親等以内の関係者に及び、死因は病気や事故、事件など多岐にわたります。
災厄は2年に一度、またはそれ以上の頻度で発生し、夜見山という街を中心に起こりますが、街を離れるとその効力は薄れます。
対策と成功例
災厄に対する有効な対策としてとられていたのが、クラスの誰かを「いないもの」にすることです。
これによりクラスを本来の人数に戻すことで、災厄の影響を軽減または防ぐことができるとされていました。
しかしながらこの方法の成功率は5割程で、根本的解決にはなっていません。
災厄を止める方法
1983年、松永克己が偶然にも死なせてしまったクラスメイトが、実はその年の死者でした。そしてそれを機に、その年の災厄は止まります。
災厄を止める方法は、死者を死に還すこと。松永は記憶が定かな内に、未来の後輩に向けメッセージを残していました。
災厄による犠牲者一覧

4月27日 藤岡未咲
見崎鳴の双子の姉。重い腎臓の病気で手術後、容態が急変し死亡。
5月25日 桜木ゆかり
夜見山北中学3年3組のクラス委員長。階段から転落し、傘の先が喉に刺さり死亡。
5月25日 桜木三枝子
桜木ゆかりの母。交通事故で重傷を負い、その夜に死亡。
6月3日 水野沙苗
市立病院のナース。エレベーター事故で床に叩きつけられ、脳挫傷で死亡。
6月6日 高林郁夫
夜見山北中学3年3組の生徒。自宅にて心臓発作で死亡。
7月12日 久保寺の母親
寝たきりの状態で、久保寺に枕を押しつけられ窒息死。
7月13日 久保寺
夜見山北中学3年3組の担任。ショートホームルーム中に自らの喉を切り裂き死亡。
7月30日 小椋敦志
夜見山北中学3年3組の小椋の兄。工事車両が自宅に突っ込み、頭蓋骨骨折で死亡。
8月8日 沼田謙作
咲谷記念館の管理人。料理用の金串で刺され、その後炎に焼かれて死亡。
8月8日 赤沢泉美
夜見山北中学3年3組の対策係。記念館の2階から転落し、頸骨を折って死亡。
8月8日 前島学、米村茂樹、杉浦多佳子、中尾順太
夜見山北中学3年3組の生徒。沼田峯子に刃物で刺されて死亡。
8月8日 沼田峯子
咲谷記念館の管理人。舌を噛み切り、窒息死。
見崎鳴に関するミスリード

物語は基本的に榊原恒一の視点で語られています。
恒一は夜見北中学に転校してきたものの、入院のために5月のゴールデンウィーク明けから登校することになります。
見崎鳴は、現象の対策として5月1日から「いないもの」として扱われていました。
この事情を知らない恒一は、鳴に話しかけてしまい、鳴やクラスの雰囲気に対して違和感を抱きます。
序盤から「いないもの」の概念が登場するまで、鳴の存在は何か幽霊めいた印象で、ちょっとしたミスリードになっていました。
物語の中でホラーしてたところです。
しかし、実際には鳴は生身の人間であり、災厄対策のために「いないもの」として扱われていただけです。
読者としてはさすがに幽霊であるとは思わないかもしれませんが、得体の知れない正体不明感が物語全体に緊張感を与えていました。
逆光の描写
物語の序盤、恒一が初めて鳴を目にするシーンでは、鳴の姿が逆光によってぼやけて見えます。
輪郭がはっきりせず、「影」のようにしか捉えられないと描写されています。鳴が実体のない幽霊のような存在であることを匂わせています。
教室の雰囲気
恒一が教室に初めて入った際、妙な静けさと緊張感が漂っていると感じています。
クラス全体が何かを気にしているような雰囲気があり、これは鳴が「いないもの」として扱われていることを示唆しています。
鳴の反応
「大丈夫なの?」
「気をつけたほうがいい」
「みんなにはわたしのこと、見えてないの」
Anotherより
恒一が鳴に話しかけたとき、鳴は上のような意味深な言葉を返します。
クラスの決め事が分かっていない状況では、恒一も読者も鳴が本当に幽霊か何かなのかと考えてしまうところです。
古びた机
鳴の机がひどく古びていることも、普通の生徒とは異なることを示しています。
いかにも、という演出。ここまでくるとさすがに素直に幽霊とは思えなくなってきます。
実際はそういう決まりだっただけです。
カラスの鳴き声と心構え
恒一が屋上で鳴と会った際、カラスの鳴き声が聞こえます。
怜子からきいた「夜見北での心構え」では、屋上でカラスの鳴き声が聞こえたら左足から戻らないといけません。
ですが鳴は何も気にせず右足から校舎に入っていきました。これも普通の3組の人間とは違うということを思わせる描写です。
工房mにて
恒一が工房mを訪れた際、受付の老婆が「他に客はいない」と言った後、鳴と出会います。
客はいないはずなのに?と考えてしまうところです。後にこの工房mが鳴の家であることが判明。確かに他に客はいない。
三神先生=怜子の叙述トリック

『Another』の物語における最大の仕掛けは、副担任の三神玲子と、恒一の叔母である怜子が同一人物であるという叙述トリックです。
この事実は読者には物語の最終盤で明かされましたが、クラスメイトや関係者は恒一と三神玲子が親族であることは知っている設定でした。
恒一も家では「怜子さん」と呼び、学校では「三神先生」と呼ぶことで、読者には二人が別人であるかのように錯覚させていました。
外観の描写
玲子は細身の身体に色白の顔、長い直毛の人物として描かれています。一方、三神先生は「美人であり、きりっとした印象」と簡潔に描写されています。
その他のよく出てくる人物はそれなりに外観の特徴も描写されていますが、両者の外観に関する記述は非常に少ないです。
美術関係のつながり
三神先生は美術部の顧問です。怜子は恒一と同じ家に住んでいますが、基本は離れの仕事場兼寝室におり、何の仕事をしているかは明かされません。
物語が進むにつれて、この離れでアトリエで絵を描いていることや、本職が別にあること、美大を卒業していることがわかっていきます。
序盤の美術の授業中、望月が恒一に「美術部に入らないの?」と尋ねるシーンがあります。
このとき、望月はまだ恒一のことをあまり知らない状態で、「だってさ……」と続くのは何か不自然です。
「叔母さんが顧問しているし」と言いたかったのでしょうね。
恒一が「美術部に入らないかと誘われた」と話したときの反応や進路に関する意見などは、美術に詳しく、先生であれば納得できるところです。
かなり終盤での恒一の鳴との会話では、離れをアトリエとして使っていること、美大で油絵をやっていたことなどが明かされます。
鳴の反応も知り合いのような雰囲気がありますし、家で絵を描くことについても「家でも」とか「家では」という感じのニュアンスでした。
美術関係では一番つながりが見える描写です。
心構えの示唆
夜見北での心構えその四。
「公私の別はきっちりとつけること。校内では、間違っても『怜子さん』なんて呼ばないように……」
Anotherより
最序盤、恒一が初めて夜見北に登校するする前、怜子は恒一に夜見北での心構えを伝えますが、その四についてはこの時は明かされずにぼかされ、すべてが解決したあとに内容が明かされます。
三神先生=怜子の伏線、というには違う気もしますが、ずっと気になってしまうところではありました。
望月との会話
「ちょっとその、心配になっちゃって。ぼくんち、このとなりの町内だからね、だからその、ちょっと……」
「まさか三神先生、何か命にかかわるような重病だったりはしないよね」「ええっ? ああ……」
「そりゃあ……こないだ桜木さんと彼女のお母さんが死んじゃって、今度は水野くんのお姉さんだろう。だからその……」
Anotherより
一つ目は三神先生が学校を休んでいるとき、恒一が病院から帰ってきたときに家の前で望月に遭遇した時のセリフ。
恒一の病気を心配しているような感じですが、実際は恒一の家に住んでいる三神先生(怜子)を心配した言動。
二つ目も望月と恒一の会話でのセリフ。
望月が恒一にただ共感を求める会話にも聞こえるが、多分実態を把握しているであろう恒一に言葉通りの内容を聞いている。
三つ目は二つ目の続き。クラスメイトの桜木、水野の親族が災厄で亡くなった後の会話。
怜子は恒一の叔母なので、災厄の範囲である2親等以内には含まれませんが、副担任は3年3組の関係者なので災厄の範囲内です。
クラスメイト本人以外の親族の死が続いたことで、三神先生の身を案じています。
久保寺の発言
「三神先生も、むずかしい立場でありながら、・・」
Anotherより
鳴に続き、恒一も<いないもの>として扱うことを決定した際の3組担任久保寺の発言。
何がむずかしいのか。それは無論、学校から帰れば同じ家で暮らす甥っ子を、学校では<いないもの>として無視しなければならないという、そんな立場だったから。
三神怜子=死者

死者は誰なのか。物語内のメインの謎です。物語の最終盤、三神先生が怜子であったことが明らかになると同時に、死者の正体も明らかとなりました。
三神怜子は1996年度に3年3組の担任を務めた際、その年の災厄により命を落としましたが、恒一の代、1998年に”死者”として復活しました。
机が足りなかったのは教室ではなく、職員室だったのです。
九官鳥レーちゃん
恒一の家で飼っている九官鳥、名前は「レーちゃん」。事あるごとに登場し、「どうして?」「元気……元気、出してね」みたいな言葉を発します。
レーちゃんは一昨年の秋にペットショップで衝動買いしたことが語られています。
九官鳥は人間が発した言葉を覚えますので、、レーちゃんの発言は一昨年の秋以降の祖父祖母の言葉ということ。繰り返し言っているはずなので、何かネガティブなことが起こったんだろうと思わせます。
理津子が亡くなったのは10年以上も前のことで、今更、というのも薄情ですけど理津子関連ではなさそう。
となると、別の人間。名前もレーちゃんだしやはり怜子に関係しそうです。
そもそも家族に怜子がいるのに同じような名前を付けるだろうかという疑問もありますね。
実際は一昨年の10月に怜子は夜見山川で溺死しており、ショックや悲しさをまぎらわせるために購入したものでした。
怜子の鳥嫌い
怜子はレーちゃんに対して苦手意識を持っており、「あの鳥は嫌い」と言っています。
自分が死んだことや死者であることを無意識に感じているのか、レーちゃんが自分の死を思い出させる存在だったのでしょう。
祖父の言葉
恒一の祖父である亮平が「理津子も、怜子も可哀想に」「葬式はもう堪忍してほしい」と言う場面があります。
可哀想発言は、死んだ理津子を憂い、残された怜子を気遣うようなセリフにも聞こえますが、実際は二人共死んでしまって可哀想という意味。
復活した”死者”(怜子)の記憶は、現在進行形で生きているように認識するよう記憶が改ざんされます。
亮平も怜子は生きていると認識しているはずですが、亮平はややボケが入ってきており、娘への強い想いなども影響し、このセリフが発せられたのかもしれません。
葬式発言については、理津子が死んで葬式はしているはずなので、単純に「近しい人の死は嫌だよね」とも取れますが、やはりそれが複数回あったような印象もあります。実際には2人の娘が亡くなり、もう堪忍、という状況。
美術部の活動停止と再開
1996年度、美術部は三神先生と別の美術の先生が顧問を務めていましたが、三神先生はその年に災厄で亡くなりました。
もう一人の顧問も転勤し、1997年度の美術部の活動が停止します。そして1998年度には三神先生が死者として復活し、美術部の活動が再開されます。
三神先生は生きていたのであれば、1997年度の美術部の活動停止の説明がつきません。
実際は1997年度に新しい美術の先生が赴任しましたが、美術部の顧問はやりたがらなかったそう。そりゃ不吉すぎてやりたくない。
父との会話
物語の中盤、恒一が父の陽介と電話で、陽介が「一年半ぶりの夜見山はどうか」と尋ねる場面があります。
恒一は中学に上がってから初めて夜見山に来たと認識しており、恒一そしてその反応を聞いた陽介は困惑します。一年半前といえばちょうど怜子が死んだ時期です。
実際は災厄でなくなった怜子の通夜や告別式のため夜見山に来ていましたが、今年度”死者”として怜子が復活し、怜子が死んだ記憶が改ざんされたため、一年半前に夜見山に来ていたことを忘れていました。
『Another』ネタバレ感想まとめ
全体としては普通に面白かったです。長いですけどスムーズに読めた印象です。
学園ホラーは子供のころから馴染みがあるのでなんだかんだ好きですね。
こうして振り返ってみると、三神先生=怜子=死者は結構わかりやすかった。のか?
読んだ方はどれくらい見抜けましたか??
机の数が足りなかったのは職員室だった、ということですが、これ先生たちは現象の件だと誰も気づかなかったのだろうか。
机の数はある年ない年の見分けポイントで、少なくとも3組に関わる先生は知識あったと思いますし。
そんな状況で「手違いでしたー」で済みますかね。
物語の内容については、クラスメイトについてはもう少し深掘っていいところはあったかなと思います。
クラス委員の風見とか対策係の赤沢とか、かなり重要な立ち位置のはずなのに最後まで空気でした。
なので基本的に誰か死亡しても、ふーんくらいにしか思わなかったですねー。現象の謎に集中してもらうため、というのはあるかもしれません。
印象に残った死亡シーンは桜木と久保寺先生ですね。痛そうで。
それと終盤のテープから合宿のあたりは割と駆け足だったなという印象。最終ステージの合宿所のシーンはもっと詳しく見たかったです。
死者も結局は鳴の能力で見つけた形になってましたし、論理的な解決が好きな人には不満だったかもしれません。
蛇足ですが作中でちょっと出てきた酒鬼薔薇聖斗の事件。
もし知らなければ教養として一度調べてみてほしい。
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