小説『赤の女王の殺人』ネタバレ感想考察|事件の真相や伏線

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麻根重次さんデビュー作『赤の女王の殺人』。どうだったでしょうか。

殺人は起こるんですが、主人公夫婦の日常生活のほのぼの感やいざこざも描かれていて、全体の雰囲気は結構好きです。

真相の解決には少し独特なものがありましたね。なるほどこういうのもアリか、という感じでした。

麻根さんではないですが、読後の備忘録として作品のおさらいにどうぞ。

ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。

『赤の女王の殺人』登場人物

  • 六原 あずさ (ろくはら あずさ)
    1. 松本市役所の市民相談室に勤務する32歳女性。結婚して10年目。30歳を過ぎても目立つ小皺はなく、街を歩けば男性の視線を引く美貌を持つ。

  • 六原 具樹 (ろくはら ともき)
    1. 刑事として働く30代半ばの男性。あずさの夫。長野の篠ノ井出身で身長180センチ近い筋肉質な体格。自覚している悪人顔に眼鏡をかけ、オールバックの髪型と相まって同僚からは殺し屋のようだとからかわれることもある。

  • 高槻 賢一郎 (たかつき けんいちろう)
    1. 司法書士の40代男性。市内の神林地区に住み、妻・睦子とその両親と同居している。首には大きな痣かシミがあり、痩せていて顔色が悪い。愛車はルノー。

  • 高槻 睦子 (たかつき むつこ)
    1. 賢一郎の妻で専業主婦。40歳の女性。数年前から精神状態が不安定で、塞ぎ込む時期とヒステリックに怒鳴る時期を繰り返している。30歳過ぎまでハナオカ電業に勤務していたが、同僚とのトラブルや夫の仕事が順調になったことをきっかけに退職した。

  • 赤木 奈津美 (あかぎ なつみ)
    1. 39歳の独身女性で、2年前まで睦子と同じハナオカ電業に勤めていた。飛びぬけて美人ではないが、化粧映えする整った顔立ちをしている。社交的なタイプではなく、親友と呼べるような友人もほとんどいないが、資産家の一族に属し、母親の財産を相続する立場にある。

  • 西條 (さいじょう)
    1. 係長で40代半ばの独身男性。松本警察署から交流人事で市民相談室に出向している。茶色く染めた短髪をヘアワックスで立たせ、眉毛も整えている。頭は切れるが他人との距離感が不適切で、女の部下に対して「ちゃん」付けで呼ぶなど、馴れ馴れしくセクハラめいた言動が目立つ。

主要事件の概要

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(2018年)1月
賢一郎が妻の向精神薬を与え忘れ、睦子が退薬効果で幻覚を見て騒ぐ。

1月末、睦子が古畑キーサービスで特注の鍵を作成。
数日後、丸岡麗美がその合鍵を作成。

2月
賢一郎と赤木奈津美が伊豆へ不倫旅行。

4月中頃
再び向精神薬を与え忘れ、睦子が幻覚を見て取り乱す。

5月
賢一郎が市民相談室に相談に来る。

5月18日(金)
13時、あずさ、原田、賢一郎が「ナツミ」と叫びながら高槻家2階の窓から転落する睦子を目撃。睦子死亡。

5月19日(土)
夜、高槻家に睦子の遺体が戻る。

5月20日(日)
赤木奈津美が大きなバッグを持って身を隠すために出かける。
夕方、奈津美が「ホテル中央」にチェックイン。

5月21日(月)
ハナオカ電業で奈津美の情報を得るが、2年前当時の住所から引っ越していた。

5月22日(火)
12時30分頃、奈津美がホテルから抜け出しタクシーで安曇野市へ。
賢一郎が奈津美を撲殺し、協栄興業廃工場に死体を隠す。

5月23日(水)
睦子の葬儀。

5月24日(木)
賢一郎が棺桶に入れた奈津美をハイエースに乗せ、安曇野の火葬場へ向かう。
焼却炉でゴミを燃やしていた近所の女性がこれを目撃。

13時30分頃、賢一郎が協栄興業の方から安曇野側の登り口のコンビニ前を通過。
14時30分頃、曽根原が墓周辺の掃除をして墓の鍵を開け、一度家に戻る。
15時過ぎ、賢一郎が六助池の近くで小学生に接触事故、通報。小学生を休ませ、奈津美の骨壺を曽根原家の墓に隠す。
15時30分頃、曽根原が墓に戻り、見知らぬ骨壺を発見。
夜、賢一郎が松本駅で曽根原を追跡するが見失う。

以後、老人をストーキングする不審人物の目撃情報が相次ぐ。
結局骨壺を取り戻すことはできなかった。

5月25日(金)
曽根原が増えた骨壺について市民相談室に相談。

5月26日(土)
未明、ホテル中央から奈津美の目撃情報の通報。

5月28日(月)
奈津美と思しき客を乗せたタクシーが見つかる。
大きい荷物を引っ張って協栄興業廃工場に出入りしてる髪の長い女性の目撃情報。
協栄興業の焼却炉で木材の焼け残りを発見。
付近で奈津美のイヤリング発見。

5月30日(水)
古畑が市民相談室にストーカー被害の相談。
古畑が睦子の部屋の鍵を作った業者と判明。

6月
伊豆方面の旅館で奈津美の不倫旅行の目撃情報を得る。
賢一郎の事故の話を交通課から聞く。
古畑が合鍵を作り麗美に渡したことを告白。
曽根原からお墓の鍵を開けた時の詳細を聞く。
丸岡光由が自殺未遂し、退薬症状を確認。
ドローンでの犯行の疑いで麗美の取り調べを行うが否認。
ドローンの動画から何かに気づき、協栄興業へ向かう。
火葬許可証再交付の確認。
焼却炉での目撃証言を得る。

真相解明

『赤の女王の殺人』伏線やヒント

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物語内では西條が推理のまとめ役として描かれていました。
その時々で考えられることを論理的に語る姿はさながら名探偵。
こいつの考えを信用していいのかどうかもそれはそれでミステリーでした。

大きいくくりでは市民相談室に寄せられた相談が事件につながるヒントや伏線になっていましたね。
急に骨壺が増えたり、爺さんがストーカーされたりとわけのわからない出来事が結局は事件に関係するものでした。

色々と細かい伏線はありましたが、いくつかピックアップ。

不倫相手の正体
賢一郎は40代で、あずさより少し背が高く、痩せ気味で顔色が悪い男性として描かれています。
奈津美の不倫相手の「田中健一」という偽名の人物も同じく40代くらいで、痩せ気味の男性です。
微妙だけど割と特徴一致。名前の語呂も似てますね。
両者が同一人物である可能性を示唆するヒントでした。

墓と事故の繋がり
5月24日、曽根原が見知らぬ骨壺を発見したのは岡田の国道沿い、六助池のすぐそばにある墓でのことでした。
曽根原は午後2時半頃に墓の掃除をし、その後家に戻り、小一時間ほどして再び息子たちと墓に戻ったとされています。
そして同じ日の午後3時過ぎに、賢一郎が六助池近くの国道143号で事故。
時間と場所が一致。関係がない方がおかしい。

黒い服装の謎
丸岡麗美は睦子が亡くなってから黒い服装をすることがしばしば描かれています。
別件で古畑を追いかけた全身黒で装ったストーカー事件の犯人が麗美ではないかというミスリードを含みながら、
実際は賢一郎の特徴的な首の痣を隠すための装いで、序盤に語られた伏線を回収していました。

犯行動機と赤の女王仮説

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賢一郎は妻の睦子の紹介で赤木奈津美と出会います。
司法書士として奈津美の遺産相談を受けることから始まった関係は、次第に不倫へと発展。

賢一郎は株やFXで借金を抱え、経済的に追い詰められていたため、資産家の一族である奈津美との関係は魅力的でした。
奈津美の母が病気で、彼女が遺産を相続するのも時間の問題だと見込んでいたのです。

やがて奈津美は賢一郎に離婚を迫り、経済的援助を続ける中で二人の関係は歪んでいきました。
賢一郎は睦子の精神状態を薬でコントロールし、家庭内の平穏を保っていましたが、偶然薬を与え忘れたことで騒ぎが起こり、離婚の決意が固まります。

事件当日、睦子が転落死したのは予想外の出来事でしたが、その後賢一郎は奈津美を殺し、火葬までして失踪に見せかける計画を立てます。
これにより自分が奈津美の不在者財産管理人に選ばれ、財産を手に入れることを目論んでいました。

賢一郎の行動は、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する「赤の女王」に作中で例えられていました。

赤の女王仮説は「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という考え方をもとにしています。
生き物が他の生物種との競争の中で生き残るためには、絶えず進化し続ける必要があるという進化に関する考え方の一つです。

賢一郎の場合、睦子の精神状態を薬でコントロールすることで平穏な日常を維持しようとしていました。
しかし、その努力を怠ったことで全てが崩れ始めました。

赤の女王仮説が示すように、安定を保つためには絶えず走り続けなければならなかった。
立ち止まった結果、二人の命が失われ、一人が犯罪者となる悲劇が生まれました。

『赤の女王の殺人』ネタバレ感想まとめ

シーソーゲームのような進化の考え方は知っていましたが、「赤の女王仮説」という名前は知りませんでした。ネーミングがかっこいい。
そのため、終盤までタイトルは意味不明でしたが、最後に「ああ、そういうことか」と一応納得。

「平穏な日々を続けるには走り続けなければならない」という考え方は、生物の進化だけでなく日常生活にも当てはまりますね。
止まっている状態が続けばその時はよくても後々問題が生じることもあります。
賢一郎は特殊な例ですが、小さくても何か進んでいる実感のある毎日を過ごしたいものです。

犯人が賢一郎だろうと思いながら読み進めていましたが、真相はオチを読むまでわかりませんでした。
睦子の事件も薬が関係しているんだろうと予想しながら、最終的に「ドローン?」となって「いや事故かい」となり、結果的に犯人は当たっていたものの、勝った感じはしませんね。

西條の推理にも振り回された感がありましたが、ナイスミドル気取りのセクハラ上司が推理で悦に入る嫌な感じのキャラは個人的に中々好きでした。
現実にいたらウザいでしょうが、このキャラのピエロ具合にちょっと笑いのある哀愁を感じます。

一見何も関係なさそうな市民からの日常的な相談が伏線となり、夫婦二人のそれぞれの視点からピースが組み合わさっていく感じが良かったです。
曽根原や古畑の相談は当然つながってきましたし、その他の財産管理人やドローンの話も少しずつ後の展開に関係していました。
子供もできたみたいで良かったね。

公務員ならではなのか、日常的ないざこざに関するちょっとした法律知識も面白かったです。
「お役所仕事」と揶揄されることもありますが、公務員側からすれば勘弁してほしいこともたくさんあるんでしょうね。

睦子の事件についてはまーわからんでもないですが、奈津美を殺す動機は少し弱く感じました。
お金に困っていて妻が死んだから奈津美と再婚、では納得できなかったんですかね。

関係性を見るに賢一郎は一生奈津美に尻に敷かれそうで、予想される苦しみも理解できる気はしますが。
司法書士で法律に詳しいからこそ、逆に変な道筋が見えてしまったのでしょうねー。

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