『私が大好きな小説家を殺すまで』は、少女・幕居梓と人気小説家・遥川悠真の奇妙な関係性を中心に展開し、愛と依存、創造性の喪失が複雑に絡み合った物語です。
登場人物の心理や言動はなかなか一口に理解できるものではなく、解釈の余地を残す展開となりましたね。
結末はどうなったのかあなたはどう考えたでしょうか。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
主な登場人物
- 幕居梓 (まくいあずさ)
- 17歳、高校2年生。踏切で自殺を試みていたところを憧れの小説家遥川に助けられ、彼のもとで生活を始める。
遥川の4作目『無題』以降の作品をゴーストライターとして執筆。
- 17歳、高校2年生。踏切で自殺を試みていたところを憧れの小説家遥川に助けられ、彼のもとで生活を始める。
- 遥川悠真 (はるかわゆうま)
- 小説家。30代男性。代表作に『遥かの海』『天体の考察』など。
梓との出会いがきっかけで彼女をゴーストライターとして起用。
作品が評価されなくなった後、梓が書いた『無題』から再び注目を集めるようになる。
- 小説家。30代男性。代表作に『遥かの海』『天体の考察』など。
- 守屋和幸 (もりやかずゆき)
- 高校2年生。文芸部部長。小説を書くのが好き。
梓がゴーストライターであることを知り、その事実を公にしようとして梓に殺されかける。
- 高校2年生。文芸部部長。小説を書くのが好き。
『私が大好きな小説家を殺すまで』ざっくり時系列あらすじ
基本の主語は梓です。
6年前、幕居梓(小学生、12歳)、遥川悠真(28歳)。
母親から午後7時から朝7時まで押し入れに閉じ込められる。
遥川の『天体の考察』を読もうとするが、母親に本を燃やされる。
書店で『天体の考察』を手に取るが、結局『遥かの海』を盗む。
母親が突然いなくなる。梓は2日間待つが戻らず。
自殺を図るが遥川に助けられ、彼の家に入り浸るようになる。
中学生になる。
遥川が『夜濡れる』を執筆後、作品を書けなくなる。
『夜濡れる』は評価されず、才能が枯れたと言われる。
梓が遥川にラブレターのような小説を書いて見せる。
遥川、新作『無題』を発表。実は梓の作品の盗作。
『無題』が高評価を受ける。
遥川の家で合鍵を使い、不在がちの彼を待つように。
睡眠薬を使い始める。
母親と最後の会話。
西ヶ浦高校へ進学。
『天体の考察』が映画化され、人気が高まる。
遥川が梓の書いた小説を読まなくなる。
遥川、対談形式の番組出演を予定。
プロットを急いで作成。
小説を読めなくなった遥川に対し、それがプロットにも及ばないかと心配する。
自身の原点に近いウォークインクローゼットに初めて入る。
プロット完成。さらにプロットに仕掛けを施す。
遥川帰宅。番組に出るのをやめることに。
実は遥川は自分で書いたプロットを用意していた。
しかし梓はそれを黒く塗りつぶし、自分の書いたプロットを鞄に入れていた。
遥川は幕居梓のプロットごと無かったことにした
遥川と梓、キャンプ場で献本を焼く。
梓は遥川を殺そうとするが、彼の言葉で止める。
高校生になり、守屋和幸と知り合う。
文芸部で短編『理由の無い春』を書く。
遥川と久しぶりに会う。遥川は憔悴していた。
プロットの一件から梓と遥川の関係は、距離が取り返しのつかないほど遠くなっていた。
文芸部で合宿の話。守屋が梓の書いた小説に言及。
守屋にゴーストライターの活動がバレる。
守屋はリークの意向を示すが、梓は逃げるように家に帰る。
梓と遥川、プロットの件で話し合う。
遥川は死にたいと言い、梓は殺人計画を考える。
守屋に蕎麦の葉エキス入りのコーヒーを飲ませ、階段から突き落とす。
その後睡眠薬の多量摂取で自殺を図るが、遥川が睡眠薬をビタミン剤に入れ替えていたため、一命を取り留める。
遥川はファンイベント後に失踪し警察が捜査を開始。
遥川の自殺が確認される。
梓、昏睡状態で病院に搬送される。
守屋も一命を取り留め病院で回復中。
守屋と電話で話し和解。
遥川の死後、彼の死んだ駅が聖地巡礼のスポットに。
その駅を訪れ遥川を思い出す。
列車が来る。
プロット事件

梓が遥川自作のプロットを黒塗りにし、遥川が番組出演を取りやめからのキャンプファイヤー。
この一連の出来事は二人の関係性においての重要な転換点で、二人の心理状態と彼らの関係の本質を浮き彫りにしました。
遥川は自分の才能が枯れてしまったことを深く自覚していたようでした。
かつての小説家としての自信と誇りは失われ、自己疑念に苛まれ、自作のプロット『部屋』を通して自己の内面をさらけ出し自己破壊的な願望を表現していました。
『部屋』のプロットを発表することで、遥川は自らの小説家としての終焉を迎えるだろうことは想像できたでしょう。
一方、梓は遥川のプロット『部屋』の内容を見て、遥川を守るために自分のプロットを使うことを望んでいました。
しかし結果、梓のプロットは使われずごみ箱に捨てられ、さらに『無題』など梓の書いたものを含めた献本を燃やされます。
これは彼女にとって遥川への敬愛と献身の否定であり、深い失望をもたらしました。
プロット事件は、遥川と梓の相互依存関係の破綻を示す象徴的な出来事でした。
梓は遥川のゴーストライターになりますが、梓の書く作品が世間に認められることが遥川を苦しめ、更なる衰退を招いたと感じます。
近くにいた自分を崇拝する人間が自分よりも優れた内容を書き、そのおかげで遥川悠真というブランド価値が保たれる。
そりゃあ遥川としてはたまらんわけです。自己肯定感はボロボロだったでしょうね。
梓が書いたものを読まない、読めないのもわかりますし、梓のプロットを使わなかった気持ちも想像できます。
ただ同時に自らの才能の消失を認め、自己破壊的な行動をとりながらも、どこかで梓からの解放を望んでいた可能性もあったでしょう。
この右往左往する気持ちや行動が、作品の中で‘崩壊’と表現されていたのが妙にしっくりきます。
そして梓は遥川を守るための行動が実際には遥川をさらに追い込む結果となったことに気づいていなかった。
彼女の行動は遥川への深い愛情と敬意から来るものでしたが、遥川の内面の葛藤を理解することができていなかったのです。
遥川の『部屋』のプロットに対する梓の反応は、彼女が遥川をどれほど深く愛しているかを示していますが、同時に彼女の中にある遥川への理想像と現実のギャップに気付いていないこと現れでもあったと思います。。
彼女の行動は遥川を守るためのものであったとしても、実際には遥川の苦悩を増幅させ追い詰める結果となりました。
この事件を通じて、遥川と梓の間の深い相互理解の欠如が明らかになり、二人の関係の破綻へとつながっていきます。
遥川の自己破壊的な行動と梓の保護欲求がお互いをうまく理解できずにすれ違う形で展開され、
最終的には大きな遺恨を残す結果となってしまいました。
なぜ梓は遥川の首を絞めたのか – 個人的疑問点

全くの的外れかもしれませんが、作品のテーマやタイトルにも繋がってくる部分だと思ったので一応残しておきます。
梓の送信ミスで守屋にゴーストライターのことがバレ、いよいよ小説家・遥川悠真が危うくなります。
その後プロット事件のことを遥川と話し、弱りに弱った遥川を見て殺人計画を考え始めます。
ここでの殺人計画発案はミスリードで、実際は守屋殺害、ひいては自殺のことも言っていたのかもしれません。
しかし梓さん二回も同じミスするとはドジ過ぎないだろうか。
二回の内、一回でも送信ミスしなければ何とかなったかもしれないのに。
順当に考えれば守屋を殺して(自分も死んで)リークを防ぎ万事OKとなる気がするのですが、守屋殺害を思い立ってから実際の殺害未遂までの間にホテルで遥川の首を絞めたことが個人的な疑問点として残りました。
ホテル直前の遊園地デートでは、どんなになっても人間としての遥川を好きというような気持ちを表明していました。
しかし首を絞めて反撃を受けた後の会話では、小説家としての遥川が好きだったと本音を漏らしています。
梓の優先順位としては小説家・遥川悠真の方が上なんでしょうね。
かつての神様とはかけ離れた存在になってしまったことへの失望と絶望で、葛藤と混乱の中この瞬間、「小説家としての遥川悠真」を守るためには、「人間としての遥川」を犠牲にする必要があるという歪んだ認識が生まれていたのかもしれません。
守屋殺害後に自殺を考えていたのは、遥川をこんなにしてしまった罪悪感、贖罪、責任感から来るもので、最後には遥川悠真を返し、後のことを託しています。
遥川としては遥川悠真を今更返されたところで良い小説は書けないでしょうし梓ももういない。
梓が完成させた『部屋』を読んだ遥川がゴーストライターのことを自分でリークしない限り、遥川自身が生きようが死のうが小説家としての遥川悠真は守られると踏んでいたのでしょうか。
ならばホテルで咄嗟に遥川の殺害を図ってしまった理由もわからなくもないです。
そして守屋を殺そうとする際、自分の勘違いに気付き、自身の執着の強さを自覚しています。
女心は秋の空といいますが揺れに揺れてます。
一応梓は、本人次第で小説家としての遥川悠真は守られ、遥川自身も生存という道は残していました。
結局遥川は身を投げましたが、梓としては想定の範囲内だったのかもしれません。
目覚めた後遥川の死を聞いても冷静でしたし。
遥川が梓の『部屋』を出版社に送ったことで二人のことが明るみになり、結局は両方の遥川を梓が殺したことになります。
幕居梓は死んだのか?結末は?

ラスト、梓が駅のホームの黄色い線を踏み越え、列車が来るところで物語は終わりました。
意見が分かれるであろう梓の生死について、私としては生きた可能性が高いかなと一応思っています。
梓の感情は理屈で考えて答えが出る話ではないのでもどかしいですね。
生きる道を選んだ解釈として、遥川が死んだことで心の支えだった小説家・遥川悠真はもう戻ってこないとはいえ、結果的に二度も自殺から救ってもらい、遥川の小説は誰かを救う為の物語だと言っている梓が、数年も経った後にわざわざ後を追うだろうかという話。
「もし神がお前を愛しているのなら、きっと引き留めてくれる」。
ここでいう神は遥川ということになるんでしょう。
途中、遥川の声を思い出しているのに引き留めてくれる相手はまだ来ないと言っているのが気になりますが、最後の最後に肯定的な言葉が聞こえたことで、踏みとどまれたのではないかと思います。
『私が大好きな小説家を殺すまで』ネタバレ感想・まとめ
『私が大好きな小説家を殺すまで』を読み終えて、一通り考えを巡らせました。
なかなか一言で表すのが難しい作品です。
いわゆる謎解きミステリーとは違いますが、人の心の深淵を探るような、解釈の余地を残すこういう作品も好きです。
とはいっても、真相を知りたい欲求の方が強いので、答え合わせができるなら作者の考えを知りたいですね。
こういう話の方が読者同士の会話は盛り上がるんでしょうか。私の周りには本を読む人があまりいないのでわかりません。
遥川と梓は、人間関係が単純なラベルや定義を超えて色々な可能性を示した一例かと思いますが、現実的にはやはり犯罪が過ぎますね。
事実だけを見れば未成年の女の子を軟禁し、ゴーストライターをさせていた。
母親とほぼ縁が切れていたとはいえ、普通にバレませんかね。
その母親もどこかの男に寄生しているということは知っていたようですし、気が変わって通報すればすぐにお縄です。
本人たちもいつまでも内緒にできるとは思ってなかったんでしょうけど。
あと、個人的に守屋がなんかかわいそうでした。
梓に想いは届かず、ややギレでリークすると言えば殺されかけ、最後はもう会うこともなさそうな和解。
守屋にしても一生のトラウマだと思います。
普段この手の作品を読んだ後は、自分なりに納得できる解釈を考えて一つ心に留めるのですが、この作品ついては消化しきれていない感じで少しモヤっとしています。
斜線堂さんの作品は割と登場人物が少ない分、一人一人の人間が深く描かれています。
必要以上に深読みしてしまっているのか、いつも迷路に迷い込んでいますね。
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