神護かずみさんの『ノワールをまとう女』は、裏社会を舞台に企業の炎上やスキャンダルを背景にしたスリリングな物語です。
主人公の奈美が企業のトラブルを解決するプロフェッショナルとして活動する一方で、巧妙な陰謀が物語を複雑にしていきます。
この作品では企業の危機管理や裏社会の駆け引きがテーマとなっており、登場人物たちの裏表のある関係性が物語の緊張感を高めています。
主人公とその恋人である雪江、さらにボスである原田との三角関係は、物語を読み進める上での大きな軸となります。
この記事は作品の核心に迫るネタバレを含んだ振り返り解説の趣きでお届けします。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
『ノワールをまとう女』主な登場人物
- 西澤 奈美 (にしざわ なみ)- 物語の主人公。企業のトラブル解決に従事する裏社会の人間。ショートボブの髪型と162センチの35歳。黒を基調としたシンプルかつクールなファッションを好む。18歳で児童養護施設を出た後、一般企業に就職したが、現在は主に炎上やスキャンダルを鎮火する「裏の仕事」を請け負っている。
 
- 物語の主人公。企業のトラブル解決に従事する裏社会の人間。ショートボブの髪型と162センチの35歳。黒を基調としたシンプルかつクールなファッションを好む。18歳で児童養護施設を出た後、一般企業に就職したが、現在は主に炎上やスキャンダルを鎮火する「裏の仕事」を請け負っている。
- 原田 哲 (はらだ さとる)- 奈美のボスである70歳の男性。かつて警察を辞め、総会屋の世界に足を踏み入れた経歴を持つ。現在は企業のトラブル処理や危機管理を専門とし、表には出せない裏の仕事を請け負っている。175センチの長身で、白髪混じりの短髪が特徴的。彼の持つ知識と経験は深く、奈美を裏社会での生き方へ導いた。
 
- 奈美のボスである70歳の男性。かつて警察を辞め、総会屋の世界に足を踏み入れた経歴を持つ。現在は企業のトラブル処理や危機管理を専門とし、表には出せない裏の仕事を請け負っている。175センチの長身で、白髪混じりの短髪が特徴的。彼の持つ知識と経験は深く、奈美を裏社会での生き方へ導いた。
- 姫野 雪江 (ひめの ゆきえ)- 32歳女性。アッシュブラウンの長い髪とふっくらした頬、白い肌。コンピューターやネットワークに深い造形を持つ。二年前に再会した奈美と恋愛関係にあり、自作のAIアプリ「ユキエ」を提供するなど、物語の進行において重要な役割を果たしている。
 
- 32歳女性。アッシュブラウンの長い髪とふっくらした頬、白い肌。コンピューターやネットワークに深い造形を持つ。二年前に再会した奈美と恋愛関係にあり、自作のAIアプリ「ユキエ」を提供するなど、物語の進行において重要な役割を果たしている。
- エルチェ - 30代後半の男性。本名は峰岸比呂。ボサボサの長髪と無精髭、長身で目鼻立ちが整っている。市民運動団体「美国堂を糺す会」の代表で、組織の柱として物語の重要な位置を占める。ネットでの繋がりを重視し、メンバーともハンドルネームで通す慎重な性格だが、その信念は強固である。
 
- 30代後半の男性。本名は峰岸比呂。ボサボサの長髪と無精髭、長身で目鼻立ちが整っている。市民運動団体「美国堂を糺す会」の代表で、組織の柱として物語の重要な位置を占める。ネットでの繋がりを重視し、メンバーともハンドルネームで通す慎重な性格だが、その信念は強固である。
- 美国堂株式会社 (びこくどう)- 日本を代表する大手医薬品メーカー。1900年に漢方薬局として創業し、その技術を基盤に成長を遂げてきた。現在は化粧品や医薬品、飲料、生活用品を扱う四つの主要事業を展開し、国内外で高い評価を受ける企業である。日本橋に本社を構え、従業員数は約1万8千人、関連会社を11カ国に持つ。優良企業として知られているが、物語の中ではデモやスキャンダルに巻き込まれるなど、組織内外の緊張感が高まる重要な舞台となる。
 
- 日本を代表する大手医薬品メーカー。1900年に漢方薬局として創業し、その技術を基盤に成長を遂げてきた。現在は化粧品や医薬品、飲料、生活用品を扱う四つの主要事業を展開し、国内外で高い評価を受ける企業である。日本橋に本社を構え、従業員数は約1万8千人、関連会社を11カ国に持つ。優良企業として知られているが、物語の中ではデモやスキャンダルに巻き込まれるなど、組織内外の緊張感が高まる重要な舞台となる。
- 美国堂を糺す会 - 反日的な経営方針を理由に、美国堂に抗議するため発足した市民団体である。母体は「日本を生きる会」という保守系の団体であり、特に韓国への寄付行為や反日発言を糾弾する活動を展開している。団体の代表者はエルチェというハンドルネームを使用しており、活動の多くはSNSを中心に行われている。彼らの抗議活動はデモを通じて、メーカーへの強い圧力をかける形で展開されている。
 
- 反日的な経営方針を理由に、美国堂に抗議するため発足した市民団体である。母体は「日本を生きる会」という保守系の団体であり、特に韓国への寄付行為や反日発言を糾弾する活動を展開している。団体の代表者はエルチェというハンドルネームを使用しており、活動の多くはSNSを中心に行われている。彼らの抗議活動はデモを通じて、メーカーへの強い圧力をかける形で展開されている。
企業トラブルの陰で暗躍する黒幕の正体

物語の黒幕は西澤奈美のボスである原田哲でした。
原田は警察を辞めた後、総会屋を生業としてきましたが、企業の透明性が叫ばれ、商法が改正により総会屋は一掃されました。
原田には自分たちの存在が企業にとって必要不可欠だという強い信念があり、その信念に基づき、自ら火種を蒔いては問題を解決し、企業に対する有用性を示すという手段を取ります。
今回の事件では美国堂に対し、自分を不要とする役員たちに自身の立ち位置を示すために動いていました。原田は奈美を始めとした部下を使い、策略を仕掛けます。
原田はとても巧妙で、例えば木部雅巳にアドバイスをして美国堂に対して騒ぎを起こさせ、
さらに木部が病気を抱えていることを利用し、保険証の不正使用、診療報酬の不正請求に加担させるなど、徹底した冷酷さがあります。
木部については結局奈美が暗躍したことで自殺に追い込まれましたが、最終的に木部の死を引き起こしたきっかけは紛れもなく原田です。
奈美は雪江の残した手がかりから、この事件の背後に原田が関与していることを突き止めます。
原田は、奈美にとって師でありながら、同時に裏で糸を引く黒幕として立ちふさがる存在でした。
ハッキングから命を賭けた対決まで、雪江の行動の軌跡

雪江が原田にたどり着いた経緯は、「美国堂を糺す会」に潜入し、原田の指示に従って行動したことから始まります。
雪江は美国堂のスキャンダルや反日的な発言などをネタに、組織に大きなダメージを与えるための情報を収集し、その過程でエルチェや他の関係者に接触していきました。
しかし、パートナーである奈美と上司の原田とのつながりが見えたことで不信感を抱くことになります。
雪江は奈美が具体的に何をしているか知らされていませんでした。
雪江は原田のスマートフォンにハッキングを仕掛け、彼の行動を監視することに成功。原田の家にも複数回侵入し、彼が抱える機密情報を入手します。
原田の暗躍や背後での動きを知ることになり、最終的には原田に対して糾弾する立場に立ちます。
こうして原田と雪江は対峙。原田は過去に自身の師であった山形との間で行った「勝負」を提案します。
この勝負では、青酸カリと砂糖をそれぞれオブラートに包み、どちらかを選ぶというものです。
オブラートに包むことで、即座に死ぬことはなく、どちらを選んでも最終的には自殺に見せかけられるというもの。
実際に、この勝負に挑んだ師の山形は、総会屋としての行く末を悩んだ末に自殺したと報じられています。
雪江が選んだのは青酸カリの入ったオブラートでしたが、実際には両方とも青酸カリが入っており、彼女がどちらを選んでも死ぬ運命にありました。
青酸カリは、胃酸と反応してシアン化水素を発生させ、細胞の呼吸を止めることで死に至らせます。雪江はこの青酸カリを摂取し、体内で毒が生成され、命を落としました。
胃や腸には青酸化合物による典型的な糜爛が見られましたが、外部からの事件性は認められず、自殺として処理されます。
一方、原田は自身の体質を利用して、この危険な賭けを乗り越えました。
原田は胃酸が少ない「低酸症」であり、青酸カリが体内で反応しにくい状態でした。さらに、彼は亜硝酸アミルと酸素を交互に吸入することで、万が一に備えた解毒を行いました。
これにより、原田は無事に勝負を生き延び、雪江を殺害することに成功したのです。
奈美が原田の裏の顔を暴いた決死の戦い

奈美は原田から正式に仕事を依頼される前、美国堂社長大池のスキャンダルに関連する映像を大阪で隠し撮りし、それを黄に加工させました。
この映像は韓国人女優趙愛榮と大池がホテルで密会しているように見せかけた捏造写真となり、市川から川北副社長に匿名で送られました。
川北はそれを原田に渡し、雪江を経由して最終的にエルチェの手に渡ります。
もちろん原田、そしてエルチェはこの捏造写真を美国堂を攻撃する材料として利用しようとしましたが、最後は奈美と黄により、その計画は阻止されます。
原田の最大の誤算は、エルチェに接近する役を雪江に任せたことです。
雪江はエルチェに潜入する中で奈美と偶然鉢合わせします。この出来事が、雪江が原田を調べ始めるきっかけとなりました。
雪江は奈美が「林田佳子」と名乗って活動していることを知り、秘密裏に彼女を観察します。
その後、奈美がヒルトンホテルで原田と会っている場面を目撃したことで、雪江は自分が巻き込まれている事態の重大さに気づきます。
彼女は愛する奈美と、信頼していた原田の関係に疑問を抱き、真実を知るために動き出しました。
雪江は自分が何に巻き込まれているのかを突き止めるため、独自に原田の動向を探り始めます。
彼女はハッキング技術を駆使して原田のスマホに侵入し、会話を盗聴することで原田の裏の顔に気づきます。
さらに雪江は原田の自宅に何度も侵入し、彼の手帳などの重要な情報を入手することに成功。
捨て身とも言える雪江の行動から得られた情報は奈美も知ることとなり、原田が背後で全てを操っていたことが明らかになりました。
雪江の行動は自己犠牲的なものであり、最終的には自らの命を危険にさらしてでも真相を暴こうとしました。
雪江が得た情報は、奈美にとって原田の裏の顔を暴くための決定的な鍵となり、奈美はその情報をもとに原田の計画を打ち破ることに成功します。
原田の計画は雪江と奈美のタッグによって崩壊し、最終的に奈美が勝利を収める形で幕を閉じます。
『ノワールをまとう女』ネタバレ感想まとめ
雪江と黄がやたら有能でしたね。雪江はまだしもああいう展開になるなら黄にもっとスポットが当たってもよかったかもしれないです。
「ユキエ」みたいなアプリが欲しい。
あとは市川が意外といい仕事をしていたのではと思いました。
ストーリーの中でそこまで目立たないキャラでしたが、市川の行動や情報がゆくゆく重要な局面に繋がっていて、密かにグッジョブしてました。
総会屋というのはイメージでだけであまり知りませんでしたね。
簡単に言えば、株主総会で企業の不正を指摘する代わりに金銭を要求したり、逆に不利な発言を抑える代わりに利益を得るような人たちだったらしいです。
原田がこの総会屋として暗躍していたことが作品の背景にあるんですが、時代の変化とともに表舞台から消えたんだなーと勉強になりましたね。
あと印象的だったのは木部雅巳。なんか終始かわいそうだった気がします。
原田に利用され不正請求までさせられて、最終的にはその事実を奈美にリークされて自殺に追い込まれるなんて同情しかない。
エルチェは木部の死について全てを知っていたわけではないですが、それをきっかけに過激になっていくのも無理はないしなおさら悲しみが深まります。
結末に関しては、正直なところ意外性はあまりなかったです。
原田が黒幕だろうというのは早い段階で見えてしまったし、驚きという点では物足りなさも感じました。
でも、終盤の奈美と雪江のやり取りはなかなかエモいものもありましたし、二人の間にある複雑な感情がうまく描かれていたのは良かったと思います。
雪江が自分の恋人である奈美を守ろうとしつつも、原田という強敵に立ち向かっていく姿には引き込まれました。
全体的には驚きに欠ける部分はありましたが、読んでいて退屈することはなかったです。
西澤奈美が活躍する作品は他にもあるようなので、また機会があれば読んでみたいですね。
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