浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』は、就職活動というリアルな舞台を背景に、緊張感漂う心理戦と巧妙な伏線が織りなすミステリーです。
個性豊かな六人の学生が一つの内定をめぐって互いに駆け引きを展開し、次第に彼らの秘密と本性が明らかになっていくストーリー。
人間の欲望や恐怖、友情の裏に隠された真実を探り、深まる謎がどのように解き明かされるのか、物語は驚きの結末へと向かいます。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
『六人の嘘つきな大学生』登場人物
- 波多野祥 吾 (はたの しょうご)
- 立教大学で経済学を学び、散歩サークルに所属している。特別な才能や突出した実績は持たず、物事に対して挑戦する意欲を持ちながらも「普通にいい人」であることを心掛けている。周囲の評判からも他人よりうまく世渡りしているように見えるが、自信には乏しく、努力に裏付けられた確信はない。性格は温和で気さくな一方、内面には不安や葛藤を抱えている。
- 立教大学で経済学を学び、散歩サークルに所属している。特別な才能や突出した実績は持たず、物事に対して挑戦する意欲を持ちながらも「普通にいい人」であることを心掛けている。周囲の評判からも他人よりうまく世渡りしているように見えるが、自信には乏しく、努力に裏付けられた確信はない。性格は温和で気さくな一方、内面には不安や葛藤を抱えている。
- 嶌 衣織 (しま いおり)
- 早稲田大学で社会学を専攻し、プロントでアルバイトをしている。小柄で色白の容姿に加え、清純で上品な雰囲気を持ち、日常の中でも控えめで穏やかな印象を与えるが、内に秘めたやる気と明晰な頭脳を併せ持つ。洞察力に優れ、情報を見極め本質を引き出す能力は高い。ジャスミンティーを好む一面も見せる。
- 早稲田大学で社会学を専攻し、プロントでアルバイトをしている。小柄で色白の容姿に加え、清純で上品な雰囲気を持ち、日常の中でも控えめで穏やかな印象を与えるが、内に秘めたやる気と明晰な頭脳を併せ持つ。洞察力に優れ、情報を見極め本質を引き出す能力は高い。ジャスミンティーを好む一面も見せる。
- 久賀 蒼太 (くが そうた)
- 慶應大学総合政策学部で、容姿端麗で端整な顔立ちを持つ。深く彫られた目鼻立ちと太めの眉が特徴であり、時代を超えた俳優のような魅力を持ちながらも現代風の好青年として見える。物腰や話し方からは自然と爽やかさがにじみ出ており、選び抜かれた言葉の背後には知性が垣間見える。完璧さゆえに他者が羨むことなく、むしろ共感を引き起こす存在である。
- 慶應大学総合政策学部で、容姿端麗で端整な顔立ちを持つ。深く彫られた目鼻立ちと太めの眉が特徴であり、時代を超えた俳優のような魅力を持ちながらも現代風の好青年として見える。物腰や話し方からは自然と爽やかさがにじみ出ており、選び抜かれた言葉の背後には知性が垣間見える。完璧さゆえに他者が羨むことなく、むしろ共感を引き起こす存在である。
- 袴田 亮 (はかまだ りょう)
- 明治大学に通う身長187センチの大柄な男性で、見た目は岩のようにごつごつとしているが、笑顔には愛嬌がある。高校時代には野球部でキャプテンを務め、現在はボランティアサークルの代表も務めるなど、リーダーシップやチームワークに優れている。趣味のジム通いで鍛えられた厚い胸板が特徴的。
- 明治大学に通う身長187センチの大柄な男性で、見た目は岩のようにごつごつとしているが、笑顔には愛嬌がある。高校時代には野球部でキャプテンを務め、現在はボランティアサークルの代表も務めるなど、リーダーシップやチームワークに優れている。趣味のジム通いで鍛えられた厚い胸板が特徴的。
- 矢代 つばさ (やしろ つばさ)
- お茶の水女子大学で国際文化を専攻し、高い語学力を持つ。端正な顔立ちの美人であり、印象的な存在感を放つ。旅行が好きで、特に海外旅行を楽しんでおり、過去にはヨーロッパを二カ月かけて巡った経験がある。性格は芯が強く、自信にあふれている部分があり、そのために他者との間に適度な距離を保つことが多い。
- お茶の水女子大学で国際文化を専攻し、高い語学力を持つ。端正な顔立ちの美人であり、印象的な存在感を放つ。旅行が好きで、特に海外旅行を楽しんでおり、過去にはヨーロッパを二カ月かけて巡った経験がある。性格は芯が強く、自信にあふれている部分があり、そのために他者との間に適度な距離を保つことが多い。
- 森久保 公彦 (もりくぼ きみひこ)
- 一橋大学に在籍する秀才。特徴的な縁なし眼鏡と鋭い視線が彼の知的な印象を際立たせている。寡黙で感情を表に出すことは少ないが、内にはスピラリンクスに入社したいという強い情熱を秘めており、データ収集や分析に余念がなく、その集中力は周囲を圧倒するほどである。酔うと卑屈な一面を見せるが、普段は冷静沈着な振る舞いを維持している。
- 一橋大学に在籍する秀才。特徴的な縁なし眼鏡と鋭い視線が彼の知的な印象を際立たせている。寡黙で感情を表に出すことは少ないが、内にはスピラリンクスに入社したいという強い情熱を秘めており、データ収集や分析に余念がなく、その集中力は周囲を圧倒するほどである。酔うと卑屈な一面を見せるが、普段は冷静沈着な振る舞いを維持している。
「スピラリンクス」最終選考の幕開け

8年前、2011年4月27日に行われたSNS企業「スピラリンクス」の最終選考での出来事を描いた前半パートでは、
就職活動における熾烈な競争を舞台に、6人の就活生が唯一の内定枠を争う心理戦とそれに伴う衝突が繰り広げられます。
最終選考は「全員で協力する」という当初のディスカッション形式から一転し、突然「6人の中から内定者にふさわしい一名を学生たちが選ぶ」という内容へ変更されました。
彼らの関係は一気にライバル関係へと変わり、選考中には会議室内で個人名を告発する6通の封筒が発見され、この内容は誰に投票するかの意思決定に大きな影響を与えました。
物語の途中には8年後、現在に行われた就職活動を振り返るインタビューパートが挿入されています。
最終選考が始まる前に差し込まれている当時の人事部長・鴻上のインタビューでは、インタビュアーが内定者であることが明示されていました。
またインタビューの中では封筒を用意した「犯人」についてもそれぞれ言及していて、その「犯人」はすでに亡くなっていることがわかります。
鴻上以下、最終選考参加者の袴田、九賀、矢代、森久保の順でインタビューが描かれていきます。これにより、物語が進むにつれ内定者と犯人の候補が絞られていくような格好となりました。
封筒に同封されていた写真には全てノイズと黒い点があり、同一のカメラで撮られたものとされます。
そして写真の内容から撮影時間を割り出し、アリバイを確認していったところ、最後は唯一アリバイのない波多野祥吾が犯人とみなされました。
波多野に対しての告発の内容は未成年者飲酒。写真は一年生の時の新歓コンパの席でキリンラガービールを飲んでいるものでした。
ピンボケした写真を見た瞬間、波多野は真犯人が分かったようですが、波多野は自身の犯行だと認め、「嶌の悪事は見つけられず、封筒は空」だと言って持ち帰ることになります。
最終投票の結果、嶌が逆転勝利。内定者であるインタビュアーが嶌であり、インタビュー内で「犯人」とされているのが波多野であることがはっきりしました。
しかし、インタビューで森久保が「嶌に惚れている波多野に自分の封筒を持たせたのではないか」「嶌は犯人ではないか」と指摘したことや、波多野が真犯人を分かっていながら敢えて犯人であること受け入れ、嶌の内定を後押しした形になったことで、
波多野目線で最終選考を追ってきた読者としては、「嶌が真犯人かつ内定者で、嶌のことを好きな波多野が利用されたんだな」と一旦それらしい結論が出されることになります。
スミノフとビール――真犯人の手がかり

最終選考パートが終わると続いて現在の時系列へ。嶌衣織が内定を取った選考から8年後を描いています。
波多野祥吾の妹、波多野芳恵から嶌に連絡が入り、波多野祥吾が病死した事実を知ります。そして遺品の中に、嶌に宛てた書類、そして同じクリアファイル内にUSBメモリと鍵がありました。
書類には「犯人、嶌衣織さんへ」と書いてあり、さらに波多野が記した文章を見て、嶌は初めて波多野は犯人ではなかった(かもしれない)ことを知ります。
犯人ではない嶌はこの状況に混乱。嶌が犯人だとリードされていた読者もまずここで一驚き。波多野、嶌以外に本当の犯人がいたことが示唆されます。
犯人が波多野でないのなら、渡された封筒の中が空かどうかは当時の波多野にはわかりません。他に真犯人がいるとすれば、波多野が持ち帰った封筒の中には、嶌への告発が入っていたはずです。
嶌には告発されるようなことに心当たりがなく、それが逆に彼女に恐怖を与えていました。嶌は告発の内容を確かめるため、真犯人を見つけるため動き出します。
USBメモリ内のZIPファイルのパスワードは「犯人が愛したもの」。波多野から犯人だと思われている、と思っている嶌は自分の愛したものを考えますが確信には至りません。
ここまでで嶌が好きなものを考えると「ジャスミンティー」が思い浮かびますね。
その後、芳恵は6人のエントリーシートを見て、学生たちが証言した時間通りに告発写真を撮ってまわるのは無理だということに気がつきます。
久賀か通っていた慶応大学総合政策学部は、神奈川県の湘南藤沢キャンパスにあります。午後2時に森久保(一橋大学の国立キャンパス)の写真を撮り、午後4時に久賀の写真を撮るため湘南藤沢キャンパスに移動。
ここまではいいのですが、午後5時に八代の写真を撮るには錦糸町まで1時間で移動する必要があり、それはどの手段を以っても不可能でした。
学生たちが嘘の証言をするメリットはなく、学生たちは犯人に脅されて嘘の証言をしていた可能性に嶌は気が付きます。
実は最終選考パートで描かれていた矢代のインタービューで、すでにヒントが提示されていました。矢代はそのインタビューで、「記憶は曖昧だが犯人に脅されて嘘をついていた」という旨の発言をしています。
改めて選考時の映像を見てみると、封筒の中には2枚の紙が入っていることが確認できました。もう一枚の紙は文面は判読できませんが、脅し文句と証言の指示が書いてあったことは想像に難くありません。
まだ誰が犯人であるかはわかりませんが、このことのより波多野祥吾は無実であったということが明らかになります。
Googleで『波多野祥吾』を検索してみると、『散歩サークル歩っ歩や』のサイトが出てきました。波多野がまだ一年生で未成年の2008年新歓コンパセクションの写真の中に、スミノフを飲んでいる飲酒画像を発見。
しかし、選考の時の写真はスミノフではなくキリンラガービール飲んでいる写真でした。ピントもずれておらず、構図もやや違います。さらに調べると『ボツ写真』コーナーに選考の時の写真を発見します。
なぜ真犯人はわざわざキリンラガービールの写真を使ったのか。掲載リンクの順序を見ても、キリンラガービールの写真にたどり着く前にスミノフの画像を見ることになります。
写真のクオリティを考えれば、スミノフの画像を使わない理由はありません。これらの事実から、嶌は真犯人の正体に辿り着きます。
真犯人とZIPファイル

結論から言うと、真犯人は九賀蒼太でした。
九賀はお酒に関しての知識に乏しかったため、スミノフがお酒と判断できず、わざわざボツ写真から見たことのあるビールの写真を持ってきていました。
嶌は事前に久賀以外の学生に話を聞くと、スミノフっていうお酒のことを知っていました。こうして外堀を埋め、最後に久賀と対面します。
九賀は他の候補者の過去を調査し、告発文や写真を準備して心理戦を操作していました。
選考中、封筒を最初に開け、封筒の開封順序を操作し議論を混乱させたのも、写真のノイズや黒い点について最初に指摘したのも久賀。
自身をイメージダウンさせてまでもこのような行動をとった理由は何だったのか。
スミノフをお酒と判断できなかったことを指摘すると、最終的に久賀は自白。
動機は、「企業は本当に優秀な人材を選抜できているのか」という疑問と怒りに端を発しています。九賀は友人であり、才能ある起業家となった川島和哉がスピラリンクスの二次面接で落とされたことに憤りを感じていました。
最終選考に残った6人を見たとき、彼らを川島ほどの資質があるとは思えなかったため、人事の判断や就職活動そのものに疑問を抱き、「社会」への不信を強めたのです。
すべてを吐いた久賀に、嶌は自分の封筒の中身(告発内容)について聞ききましたが、「波多野は空だと言って出て行ったが、中身は間違いなく入っていた」とだけ言い、肝心の内容は話してくれませんでした。
しかし、後輩の鈴江真希からのメールで、嶌はある可能性に気づきます。鈴江真希のメールの件名は「マネージャー、嶌さんへ」。これを見て、波多野の遺した「犯人、嶌衣織さんへ」の文言が「犯人と、嶌衣織さんへ」と解釈できることに気づきます。
波多野は犯人が久賀であると分かっていた。そう仮定すると、ZIPファイルのパスワードは嶌ではなく九賀蒼太が愛したもの。それは『fair/フェア』。
ZIPファイルの中には、テキストファイルが一つと、三つの音声ファイルが保存されていました。
テキストファイルには、スミノフの写真で久賀が犯人と分かったこと、デキャンタ騒ぎでの久賀と口論、3人(袴田、矢代、森久保)についての重要な証言音声を同封したこと、そして、持ち帰った嶌の告発内容入りの封筒がレンタル倉庫にあることが記載されていました。
また、波多野が嶌に対して特別な感情を抱いていたことも触れられており、波多野は真実を知った上で、自身を守るために行動していたことを知るのです
嶌衣織が負った事故の後遺症と家族の秘密
嶌衣織に対する告発内容は、兄が相楽ハルキであるということでした。相楽ハルキは有名な歌手で、かつて薬物依存に苦しんでいました。発覚した当時は世間にバッシングされ、嶌はそんな兄と同居していました。
嶌自体は潔白でも、あらぬ疑いをかけられる可能性は十分にあり、選考時にそれが暴露されていたら相応のイメージダウンは避けられなかったでしょう。
現在は薬物に触れた経緯には同情できる事情があるということが世間にも浸透し、バッシングは鎮まっています。
また、過去に嶌が兄の運転する車の事故で骨盤を骨折し、現在も歩行機能に後遺症を負っていることが明らかとなったことで、これまでに描かれてきた他の学生たちの行動に意味があったことに読者は気づくことになります。
学生たちの裏表

波多野祥吾
波多野祥吾は表面上、親しみやすく気さくな人物として振る舞いが見られます。しかし、内心では責任感が強く、自らの弱さや苦悩を抱えながらも他者を守ろうとする複雑な人物でした。
最終選考の際には、自分が犯人であると偽り、嶌衣織が安心して選考に臨めるように計らいました。
波多野のその後は辛いもので、しばらく就職活動に戻れない時期が続きましたが、周囲の支えによって再起し、日本最大手のIT企業に就職。
しかし志半ば、数年後に悪性リンパ腫で亡くなってしまいます。
波多野が遺した書類には、選考のやり直しを求める内容が含まれており、犯人が九賀蒼太であることや、嶌の告発内容が入った封筒をも同封する旨を明記していました。
いつ書かれたものなのか、どのような思いだったのは今となってはわかりませんが、自身の行動を後悔する気持ちは相当に大きかったのでしょう。
しかしその書類は提出されることなく終わり、結局のところ波多野は自らの犠牲によって事態を収めた形となりました。
嶌は波多野の行動を知った後、腹黒大魔王と皮肉りながらも、波多野がどれほどの覚悟や責任感を感じていたかを理解し、深い感謝の念を抱きます。
波多野の生き方は、嶌にとっても人としての在り方を問い直すきっかけとなったのです。
九賀蒼太
九賀蒼太は表面的には知性やリーダーシップを持つ魅力的な人物で、周囲からの信頼も厚い存在です。
最終選考での告発内容は、彼が恋人である原田美羽を妊娠・中絶させた後、一方的に関係を終わらせたというものでした。この事実をに見れば、単純に最低な男と映ることでしょう。
しかし、波多野が原田美羽と会い、彼女が涙ながらに九賀を擁護していたことからも、彼は悪者としての一面だけで判断されるべきではないと示されています。
インタビューの際にも嶌の障害を考慮して駐車エリアに車を停めたり、喫茶店を待ち合わせ場所に選んだりと、細やかな気遣いを見せています。
九賀が封筒を用意して心理戦を仕掛けた行為は許されないものでしたが、その動機には「社会の不条理なシステムに一石を投じたい」という強い思いがありました。
社会や自分への厳しい視点を持ちつつ、罪を背負いながらも、自らの行動の正当性を必死に探していたのです。
袴田亮
袴田亮は、外見や行動が粗暴であるとの印象を受けやすく、物語の中でも「チームの和を乱す者にはすぐ手が出る」と語っている場面がありました。
この印象は、最終選考で告発された「高校時代に部員を自殺に追い込んだ」という内容によってさらに強まります。
嶌のインタビューのとき袴田が公園で子供たちに厳しく注意する姿は、乱暴で怒りっぽいイメージもありました。
添付された新聞記事は、いじめが原因で部員の佐藤勇也が自殺したことを報じていますが、それは真実とは異なります。
佐藤勇也は実際にはいじめの加害者であり、下級生たちに過酷な練習を強要し、怪我をさせることもありました。
佐藤が自殺したのは、袴田が状況を知り、下級生たちを守るために彼に反省を促す措置を取った直後でした。
袴田の行動は加害者への責任を追及するものでしたが、あろうことか佐藤の遺書には「いじめ受けていた」という内容が書かれてあり、いじめの首謀者とされてしまったのです。
公園で子供たちに注意したのも、実は近くにいたお婆さんが危険な目に遭っており、事故を未然に防ぐためのものだったことがわかります。
袴田はとても正義感が強く、いつも他者の安全を守るため行動していました。
矢代つばさ
矢代つばさは派手な見た目や一見高慢な態度から冷淡な印象を抱かれることが多く、キャバクラで働いていたという告発も受けました。
エルメスの鞄を持ち、人が少ないからと言って電車の優先席を占領する行為も印象は良くありません。
矢代は幼少期から学校でのいじめや嫌がらせを受けており、その経験から「社会」に負けないようにと負けず嫌いな性格を形成していました。
キャバクラで働いていたのも、やりたいことをやるお金と時間を作るため、効率のいい稼ぎ方を求めた結果です。
電車での優先席のエピソードも、障害を抱える嶌衣織が気兼ねなく座れるようにするための配慮でした。
矢代は学費や習い事を工面するため努力を惜しまず、誰にも媚びずに自分の道を切り開いていた人物で、
彼氏にもらった選考当時の鞄を今でも大切に使っていることからも、物やお金を大事にし、人知れず他者を気遣う深い思いやりの心が伺えます。
森久保公彦
森久保公彦は外見からして冷静で知的な印象を与える人物で、物語内では真面目で慎重なキャラクターとして描かれています。
しかし、最終選考で告発された「高齢者向けオーナー商法の詐欺に加担している」という内容によって、彼の評判は一時的に傷つきました。
森久保は母子家庭でお金に困っており、複数のアルバイトを掛け持ちしていました。
彼が詐欺に関わったのは、悪意を持って加担したわけではなく、割のいいバイトだと友人から誘われたことがきっかけでした。
初日から商法の不自然さに気づき、翌日には辞める決断をしていたことからも、彼が良心を持つ人物であることがわかります。
森久保は後に詐欺に加担したことを大学に報告しています。
この行動は自分自身の正直さと道徳観によるものでしたが、その結果として、周囲からは一部誤解されることもありました。
同級生たちは彼のことを「嘘が嫌いで神経質」と評し、慎重で真面目な性格であることを認めています。
森久保は表面的には卑屈で器の小さいように見えることもありましたが、実際には困難な環境になかでも努力を怠らず、信念を貫く強さを持った人物でした。
『六人の嘘つきな大学生』ネタバレ感想、その他考察まとめ
ミステリー的な驚きというものは少なかったですが、他人に対する評価について今一度見直したいなと感じた内容でした。
どちらかというと納得感と言いますか、人間善人ばかりではないし、いい面もあれば悪い面もある、というのは至極当たり前のこと。
完璧な人間などいないのだから、いくら時間をかけても他人を正当に評価するなど無理です。
なので、川島が落ちたのも当然あり得る話。何もおかしな話ではない。
それで久賀が勝手にキレ散らかして、大事な選考めちゃくちゃにして勝手に人の過去を暴露して、っていうのはさすがにやりすぎだとは思います。
でも年齢や就活生という状況を思うと気持ち的にはわかるんですけどね。
鴻上さんの話でもありましたが、人生は本当に「運」の要素が強い。努力によって技術や知識、経験を積むことで、自分が望む結果を得る可能性は高められます。
しかしそれだけで成功が保証されるわけもなく、運によって結果が左右されることも多いのが現実です。
運は自分ではコントロールできない外的要因です。就職活動でいえば、川島のようにどれだけ優秀であっても、会社が求めている「人物像」、そして「タイミング」に合致していなければ選ばれないことがあります。
本筋から逸れたので軌道修正。
物語を通して少し考えてしまったのは、登場人物たちの嘘と真実、それによって変わる印象です。
物語序盤は6人全員が優秀で素晴らしい人間のように感じられますが、最終選考中の告発やインタビューで語られた内容などで、いわゆる「裏の顔」を知ることになり、
そして後半パートでは各キャラの真実が明らかになって最終的には「みんなやっぱりいい奴だったんだな」という流れになります。
登場人物たちの持つ「表」と「裏」を見せられることで、他人の行動や立場を一面的に捉えることの危うさを再認識させられますね。
おそらく多くの人は「なんだかんだ全員いい人なんだね」というイメージで終わっているんじゃないでしょうか。
もしかすると読み終わった今も彼らをわかった気になっているだけかもしれません。
現実世界でも人間はしばしば限られた情報や偏った視点で他人を評価し、その評価に基づいて行動します。しかし人は多面的で、一つの視点や情報だけではその全体像を把握することはできません。
すべてを把握するのは無理ですが、一面だけを見て勝手に人物像を想像して評価を下してしまうことには気を付けていきたいですね。
物語の舞台となる就職活動は、まさに人間の一面だけが評価される典型的な場面です。
面接では限られた時間の中で自分を最良の形で見せることが求められますが、それは往々にして真実の自分とは異なります。それは企業側も同じ。森久保も言っていたようにただの嘘つき合戦になることも。
そんな感じならもう書類選考だけでいいんじゃないかもと思えてきますが、実際はむしろその環境に適応し、生き抜くための戦略として捉えられることもあります。
こんなよくわからない競争の中でも自己理解を深めて自分らしさを保ちながら適応していくことが、現実において求められるスキルであることもまた事実なんでしょう。
『六人の嘘つきな大学生』が気に入った方へのおすすめ
『教室が、ひとりになるまで』 – 浅倉秋成浅倉秋成氏が手がける本作は、高校を舞台に、連続自殺事件の謎に挑む青春ミステリーです。主人公がクラス内の不可解な事件に立ち向かう中で、友情や信頼が次第に揺らぎ、物語は予測不可能な方向へ展開します。緻密に張り巡らされた伏線と、驚きのラストが待ち受けるこの作品は、青春とスリルが織り成す極上のミステリーを提供します。
『教室が、ひとりになるまで』 – 【ネタバレ無し】口コミ評価レビュー
『追想五断章』 – 米澤穂信
推理小説の第一人者、米澤穂信氏が贈るこの一冊は、巧妙に張り巡らされた謎とスリリングな展開が特徴です。古書店で働く主人公が、過去の事件に繋がるリドルストーリーを追う中で、驚きの真実に迫ります。どんでん返しや巧妙な伏線が織り込まれ、最後の一行まで目が離せない展開に仕上がっています。
『潮首岬に郭公の鳴く』 – 平石貴樹
美しい函館を舞台に、平石貴樹氏が描くサスペンスフルなミステリー。俳句に見立てた連続殺人というユニークな設定の中で、名家に隠された秘密が徐々に明るみに出ます。読み進めるほどに複雑に絡み合う人間関係と手がかりが解き明かされ、ラストのどんでん返しに息を呑むこと必至。緻密な推理小説を愛する読者にぜひ手に取ってほしい作品です。




