さてさて、『ノワール・レヴナント』読み終わりました。
750ページ越えのこの大作、読了後はそこそこの達成感と、もうちょっとこの世界に浸っていたいなぁという名残惜しさが混ざってます。
特殊能力を駆使する高校生たちの冒険、読みごたえ十分でした。
この記事では作品の理解を深められるよう物語を振り返り、解説・考察していきます。
よければお付き合いくださいませ。
ご注意:
この記事は作品の詳細な内容を含んでおり、重要なプロットのポイントや物語の結末について言及しています。未読の方はくれぐれもご注意ください。
『ノワール・レヴナント』簡単すぎるネタバレあらすじ
不思議な能力を持つ四人の高校生、大須賀駿、三枝のん、江崎純一郎、葵静葉。
彼らはある日、株式会社レゾン電子企画の催し物に招待される。
しかしそれは名ばかりで、特殊能力が覚醒するきっかけとなった謎の声に導かれたものだった。
四人はレゾン電子と自分たちの使命について調査を開始し、やがてレゾン電子現社長の黒澤孝介の家が4年前に家事に遭い、娘の黒澤皐月が亡くなっていたことを知る。
能力が覚醒するきっかけとなる謎の声、それは故人となった黒澤皐月の声だった。
黒澤皐月は父・黒澤孝介の暗躍を止めるため、この四人に特別な能力と役割を託していた。
黒澤孝介の計画は「子供を産めない、産みにくい人間を作る」という理解しがたいもの。
その動機は、自身の子供を愛せず、最愛の妻・真壁優美を亡くした原因が出産によるものからだった。
彼らはそれぞれの能力を駆使し、少しずつ黒澤孝介への道を進め、遂にを計画を止めることに成功する。
役割を終えた能力は消え、彼らは再び普通の高校生へと戻るのだった。
『ノワール・レヴナント』の主な登場人物と特殊能力
- 大須賀 駿 (おおすがしゅん)- 千葉県出身の高校2年生、母親と共にボロアパートで質素な生活を送る。
 地元の高校で学びながら、ファーストフード店でのアルバイトに勤しむ。
 その日常は地道でありながらも温かみのある人柄。
 三枝のんによれば「人畜無害を具現化したような雰囲気」の持ち主であり、葵静葉は「信用に足る人間」と評価する。
 些細な日常の中で他人への気配りを欠かさず、周囲からの信頼も厚い。
 【特殊能力】
 人の背中に「幸運偏差値」を示す数字が見える能力。
 この数字はその人の一日の運命を暗示し、50を基準として、それ以上ならば幸運、以下ならば不運を意味する。
 本人にこれを変える力はなく、ただ静かにその数値を知るだけ。
 
- 千葉県出身の高校2年生、母親と共にボロアパートで質素な生活を送る。
- 三枝 のん (さえぐさのん)- 都内水道橋に住む高校一年生、スポーティで快活な美少女。
 小・中学校時代の陸上競技で鍛えられた彼女は、その後も抜群の体力と運動能力を持ち続けている。
 しかし、サッちゃん(黒澤皐月)との出会いにより、読書に人生を賭けるようになる。
 読書を生きがいとし、知的でありながらも、誰もが羨むパーフェクトな姿勢を目指す。
 【特殊能力】
 本に触れることでその内容を完璧に記憶する能力。
 指で本の背表紙をなぞるだけで本の情報が彼女の脳に流れ込み、一字一句、挿絵まで完璧に記憶される。
 ただし、読み込む情報量、スピードに伴い、それ相応の疲労を蓄積する。
 
- 都内水道橋に住む高校一年生、スポーティで快活な美少女。
- 江崎 純一郎 (えざきじゅんいちろう)- 東京都西日暮里の静かな街に暮らす高校2年生。
 その落ち着いた態度と堂々とした立ち振る舞いは、他人を惹きつける魅力がある。
 頭脳明晰で偏差値の高い高校に通うが、知識が増え世界の広さや奥深さを知れば知るほど、その狭さや限界を感じている。
 【特殊能力】
 予言を聞く能力。毎朝、5つの予言が耳に届く。
 バリエーションは少ないが、これらの予言はその日のうちに必ず何処かで彼の耳に響く。
 
- 東京都西日暮里の静かな街に暮らす高校2年生。
- 葵 静葉 (あおいしずは)- 神奈川県出身の高校3年生。ピアノをこよなく愛し、その才能はコンクールでの最高位に輝くほど。
 ショパンを敬愛する彼女は音楽に対する深い情熱と理解を持っている。
 大須賀駿からは「品のあるお姉さん」と評され、江崎純一郎も彼女の洗練された雰囲気には一貫した品を感じている。
 【特殊能力】
 破壊の能力。物理的な破壊だけでなく、機能や本質を内側から壊すことができる。
 心の中に重く固いレバーのようなものがあり、それを倒すことで対象物に影響を与える。
 レバーを半分倒せば機能的な破壊が、全て倒せば物理的な破壊が可能になる。
 
- 神奈川県出身の高校3年生。ピアノをこよなく愛し、その才能はコンクールでの最高位に輝くほど。
- 黒澤 孝介 (くろさわこうすけ)- レゾン電子の代表取締役社長、四十九歳。黒澤皐月と真壁弥生の父親。
 大学卒業後、営業社員から瞬く間にトップへと上り詰め、その確かな実力と魅力で周囲を惹きつけるが、表面的な成功とは裏腹に、時折幼稚な理想論を口にすることも。
 その独特の思考はその確固たる肩書きとカリスマ性により、時として周囲に大きな影響を及ぼす。
 自身の子供を愛せず離婚を迫られ、さらに最愛の妻・真壁優美の死に対面。
 妻の原因が『出産』であったことで、子供を産めない、産みにくい人間を作るというとんでもない計画を実行に移す。
 
- レゾン電子の代表取締役社長、四十九歳。黒澤皐月と真壁弥生の父親。
- 黒澤 皐月 (くろさわさつき)- 父・黒澤孝介の極端な計画を知り、その倫理的な問題性に強く反発。自身の命を賭して父を止めようと決意。
 しかし、自宅の放火により自身は死亡。「ノワール・レヴナント」として4人の高校生に特殊な能力と役割を与える。
 「ノワール・レヴナント」は、それぞれフランス語で「黒」と英語で「帰ってきた人、亡霊」を意味し、彼女が死後も影響を与え続ける存在であることを象徴している。
 その沈黙の中にも強い意志と行動力を秘めた、物語の核となる人物。
 
- 父・黒澤孝介の極端な計画を知り、その倫理的な問題性に強く反発。自身の命を賭して父を止めようと決意。
- 真壁 弥生 (まかべやよい)- 黒澤孝介の娘であり、黒澤皐月の妹。
 幼い頃に母を亡くし、父には一度も会ったことがなく、現在は叔父と叔母の家に住んでいる。
 小ぶりで愛らしい外見と、潤いに富んだ円な瞳が特徴的な彼女は、極めて控えめで引っ込み思案な性格をしており、自己主張をほとんどしない。
 大須賀駿とは中学からの同級生で、彼女の「幸運偏差値」は驚異の「85」とあり得なく高い。
 叔父と叔母に迷惑をかけないよう、学校ではいつも誰よりも早く登校し、遅くまで残る。
 
- 黒澤孝介の娘であり、黒澤皐月の妹。
『ノワール・レヴナント』の読者を驚かせる巧妙な伏線

物語の流れを考えると、色んな伏線が絡み合って重要な事実に繋がっている感じでした。
伏線が伏線を呼ぶような部分も多く、あのページ数の中で記憶・把握しておくのは大変ですね。
個人的に印象に残ったところをいくつかまとめてみました。他にもたくさんあると思いますので探してみてください。
真壁弥生と黒澤皐月が姉妹である伏線
真壁弥生と黒澤皐月は二人とも黒澤孝介の娘で実の姉妹でした。
自分の子供を愛せず暴力を振るうなど非情な行いをする黒澤孝介に対し、妻・真壁優美は離婚を提案。
それぞれ子供を一人ずつ預かって別居となりましたが、やがて真壁優美は亡くなり
弥生は叔父叔母に引き取られて二人はそのまま別々に生活してました。
二人は学校に誰よりも早く登校し、誰よりも遅く帰宅するという共通点があり、
これは序盤と中盤でそれぞれ異なる視点から描写されています。
状況は違いますが、二人が孤独の中で自立しようとする姿勢が見えますね。
また二人の名前は月を意味する言葉で、これも二人の深い結びつきを暗示していました。
皐月は5月。弥生は3月。弥生の場合は「長月ちゃん」(9月)になるところでしたが、
姉妹で統一感を出したいということで噓の誕生月を名乗らせました。
となりのトトロのサツキとメイを思い出します。
一月前の葉月(8月)もそのまま名前にできそうですが、さすがに「月」の文字が被っちゃうとあからさますぎますしね。
大須賀駿と黒澤皐月の繋がり
二日目、田園調布の黒澤宅の火事で黒澤皐月が死亡したこと、各人の特殊能力覚醒が皐月死亡の翌日であることが判明します。
同時に『声』の主が黒澤皐月ということがほぼ確定。
女性陣と皐月の繋がりは見えましたが、この時点で男性陣との繋がりはまだはっきりせず、
大須賀駿に至ってはかなり終盤まで関係性がわかりませんでした。
ここで考えられるのは最序盤に出てきた弥生の幸福偏差値「85」。
偏差値というのは一般的には25~75くらいに収まるそうで、日本最難関と言われる東京大学理科三類(医学部)でやっと75周辺になります。
仮に大須賀を死ぬほど好きでデートしたり告白されて嬉しいにしても、「85」という数字はそれくらい異質でした。
同じく二日目、三枝のんが大須賀の能力について、「必ず誰かがその数値を恣意的に設定している」と言っています。
皐月が弥生の幸福偏差値を特別に設定したのであれば、何かしらの関係が有り、大須賀と皐月が弥生を通して繋がっているのが予測できるような展開でした。
その能力の役割を果たす最後のシーンへの伏線にもなっていましたね。
その他の伏線
・大須賀駿が東京ビッグサイトで遭遇した女性
その女性は大須賀駿に一旦「メイ」と名乗ります。メイ= May = 五月 = 皐月
・レゾン電子の情報のアナログ管理
のんの本を読む能力が生かされる伏線。
・田中さんの持っていたバッグ
田中さんが生物の存在理由は『子孫を残すこと』と話していたシーンは、最終的に黒澤孝介の深遠な目的まで繋がる伏線です。
のんがレゾン電子のキャンペーンページで目にした可愛いバッグは田中さんが持っていたものと同じで、田中さんもキャンペーンに参加し、さらには例の飴玉を食べてしまった可能性を示唆していました。
・葵静葉の二つ目の罰則
葵静葉が自分に課したの罰則の一つは「ピアノを弾かないこと」で、もう一つは長らく判明していませんでした。
もう一つの罰則「恋をしないこと」は葵静葉パートの最後に明かされます。
これがずっと隠されていたことで、江崎への想いを独白する感動的なシーンに繋がりました。
・ボブ=黒澤祐史
弟から教えてもらった「ノワール・レヴナント」について言及し、元社長であることを自称することは、ボブの正体と過去に関する重要な伏線でした。
後にボブが黒澤孝介の兄で『メントル製薬』の元社長である黒澤祐史ということが明らかになりました。
また、のんが黒澤祐史に電話をかけたときに出たブランシュ(フランス語で「白」の意)は、江崎とボブが入り浸っていた喫茶店の名前でした。
ノワール・レヴナントのルールまとめ
タイトルにもなっているトランプゲーム。
このカードゲーム(カジノver.)はカードの数値の「差」を使って勝敗を決めるゲームです。
プレイヤーとディーラーが対戦し、手札から選んだカードの組み合わせで勝負します。
江崎は最後にノワール・レヴナントを決め、黒澤孝介との面会にこぎつけます。グッジョブです。
単純に2人の人間にノワール・レヴナント成立のための手札が揃う確率だけでも0.1%以下です。
さらにこの時は他に三人のプレーヤーにもカードを配っているはずで、ディーラーと江崎が任意のカードを場に出すということも考えるとさらに確率は下がります。
予言の使い方の発想が光った勝負でした。
基本ルールと手順
まず5枚のカードが手札として配布される。
ディーラーは勝負札の一枚を表にしてプレイヤーに見せる。
プレイヤーは不要なカードを一枚選び、裏向きにして捨てる。
残った4枚から2枚を選び、裏向きにして場に出す。
勝負札を出す前にチップをベット。
両者の勝負札を開き、差の大きさで勝負。
以上の手順を10回。必ず10回1セット単位で参加しなければならない。
【グランデ】
自分の2枚の勝負札の差がディーラーより大きい場合。配当は2倍。
【ジェメリ】
相手の差が10以上で、自分が2枚とも同じ数字のカードを出した場合(「A」2枚、「K」2枚等)。配当は3倍。
【カバロ】
両者が2枚とも同じ数字のカードを出した場合、7に近い方が勝ち。配当は5倍。
【レヴナント】
自分の勝負札を放棄し、捨てたカードで勝負を宣言。
相手の勝負札2枚と自身のレヴナントカードの数字が同じ場合(場の3枚が同じ数字)に勝利。配当は10倍。
失敗で賭け金の5倍のペナルティ。
【ノワール・レヴナント】
レヴナント成功時、ディーラーのカードがどちらも赤で自分のカードがスペードの場合。配当は20倍。
【ピッコロ】
勝てなかった場合の宣言。賭け金は没収。
『ノワール・レヴナント』読後感想・まとめ
『ノワール・レヴナント』、長かったですが全体的には十分に満足できました。
ただ、特殊設定ゆえ、そういうものと言われればおしまいなんですが、例えば黒澤皐月があのような存在になれた過程とか理屈とか、無粋ですけどもう少し詳しく知りたいなと思いました。
裏設定集があれば読んでみたいです。
ドヴォルザーク交響曲第九番『新世界より』のシンバルの件は知らなかったので実際に演奏を聴いてみました。
たまたま選んだ動画の2分前くらいのところで本当にシンバルを鳴らしていたので意味もなく感動。
演奏者によって違うらしいんですが、この動画は本当に意識してないと聞き逃します。
次に登場人物について。
三枝のんは喋り方がアニメみたいでちょっと痛いけど、レゾン電子調査においては有能すぎる能力でしたね。
普通に一番欲しい能力。学生の時に欲しかった。
大須賀駿が言う通り、本をたくさん読んでるだけあって知的で思考能力が高いのはわかるにしても、
レゾン電子潜入作戦は不確定要素が多すぎて、もう少しその思考能力とやらを発揮した作戦でもよかったかなと思いました。
そしてカタカナの発音が実際どんなものなのか気になります。
江崎純一郎のカジノシーンでは、予言で楽勝かと思いきや、細かい言い回しに罠があったのが良かったです。
内面的な思考を見事に描き出していて、個人的にはこの部分が非常に好きでした。
「ざわざわ」とかカイジエフェクトを思わせる描写もありましたね。カイジも好きです。
あとは最後に葵静葉に贈ったメモ用紙。あれは惚れてしまう。
葵静葉は清楚な雰囲気とは裏腹になんでも破壊できるというパワーキャラ。
半分だけレバーを操作することで機能的な破壊ができるというのが肝でした。
最後は『アパッショナート』、熱情的に、激情的に目的を遂げる姿もかっこ良い。
繊細さと能力の強さのバランスが魅力的でしたね。
大須賀駿は真壁弥生とのラブコメ要素が印象的で、重いテーマの中に軽やかさを提供していたと思います。
調査活動にはほぼ役立たずの能力が、最後に皐月の大切な妹に繋がる展開が良かった。
ただこういう展開になるなら、二人の過去の出来事の描写とかがあっても良かったかなーと。
大須賀駿が選ばれたということは、真壁弥生は以前からある程度大須賀駿を意識していたとも想像できます。
が、しかし、大須賀くんチョロすぎないだろうか。
ちょっと構ってくれたら好きになっちゃうみたいな、あまりに初々しい雰囲気だったので、もう少し二人の関係性を深めるエピソードが見たかったと感じました。
最後に大須賀駿VS黒澤孝介の場面。
黒澤孝介の性格を考えたとき、あの引き際の良さが気になりました。
大須賀駿も感じていたように「気分」で引き下がっちゃうのはどうも腑に落ちない、裏があると思ってしまいます。
皐月や弥生の名前を出されて思うところがあったんですかね。
どうもこの辺りが最後スッキリしなかったので、続編の期待はあります。
とりあえず、浅倉秋成さんの他の作品はまだ読んだことが無いので漁ってみようと思います。
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